「カエルを釣る、カエルを食べる」は、動物生態学から民俗学に専攻を転じたという国立民族学博物館名誉教授・周達生さんがカエルについて書かれた本です。副題に「両生類の雑学ノート」とあるとおり、基本的には著者の体験に基づくエッセイですが、学者の方らしく専攻の民族学的観点からの記述が含まれています。
一読して印象に残ったのは、カエルの餌にまつわるちょっとした記述です。内容をかいつまんで紹介すると、
・クワガタを飼っていた時、エサのバナナ目当てにショウジョウバエがやってきた。応用して、アマガエルの飼育容器にバナナを置けば、エサとなるショウジョウバエが簡単に確保できる
・中国でウシガエルの養殖が成功した理由。動かない餌を食べさせる方法とは?(上記アマガエルのアイデアと違って、簡単に応用可能な方法でないと感じました)
といった感じです。このほか、
・60年にわたってやってきたウシガエル釣りの経験談
・カジカガエルの飼育籠(河鹿籠)の思い出と、三朝温泉で河鹿籠と再会したときのエピソード
・惚れ薬であるイモリの黒焼きの話から、檜枝岐村のサンショウウオ料理につながるくだり
も興味深かったです。
本の内容のベースは、著者の方の記憶や、長年書き溜めてきた手帳・日誌に記された出来事とのこと。この本の執筆を機に、手帳・日誌のカエルに関する記述を読み直したそうです。また、読んでいると執筆のためにフィールドを再訪する話がよく出てきて、現場を重視する民俗学者らしい姿が伝わってきます。文中各所で引用される文献も豊富で、関係分野についての膨大な読書量を感じさせます。
飼育のノウハウ本でもなく、マニアの方の体験談でもない。少し古い時代の話が中心ですが、珍しいテイストの本として一気に読んでしまいました。