樹上性だが水場も重要?アマガエルの飼い方【ケージレイアウト多数】

ニホンアマガエルは、爬虫類両生類に興味のない人が「カエル」と言われてまず思い浮かべる存在。小さくて、緑色のかわいいカエルです。そんなアマガエルを、プロはどのように飼育しているのでしょうか。エサやケージの状況をリサーチした結果をご報告します。

Kawazooの二ホンアマガエル

飼育書の記述にみるニホンアマガエル飼育

プロの飼育環境を見る前に、ニホンアマガエルの飼育条件について、詳しい参考書から基本情報を抜粋します。各参考書とも抜粋部分の何倍、何十倍の情報量がある本ばかりですので、実際に飼育される方にはご一読をお勧めします。

千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」には、

ケージ:テラリウムで飼い、とまれる枝や植物を入れておく。夏は蒸れに注意。通風をよくすると共に、跳ねてぶつかっても吻端を傷付けないので、蓋は布がよい。

エサ:ハエ・コオロギ・ウンカ等の虫を食べる。けっこう大食いで1日にハエにして5~10匹、重量にして月に体重の3倍以上食べ、速やかに育つ。

とあります。

田んぼの畔の二ホンアマガエル

大谷勉著「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」には、エサについて次のような記載がありました。

エサ:餌は日中、飛翔昆虫を含む地表棲無脊椎動物を捕食するが、夜間、灯火などの明かりに集まり、飛翔昆虫類を捕食する。飼育下では餌用の昆虫類を使用。餌サイズは口の幅を最大とし、それ以下のサイズの餌を与える。

海老沼剛著「お茶目なカエルと暮らす法 かえる大百科」には、樹上生カエル一般の飼育レイアウトについて、次のように書かれています。

奈良県の道の脇にいたアマガエル
  • こもった空気は樹上生の種にとって大敵である。飼育ケージを選択するときは、通風の良いケージであることを念頭に置いて行おう。昨今では、上部が網蓋で前扉を開閉してメンテナンスができるガラスやアクリル製の専用ケージが市販されている。
  • 樹上種の場合、地上に降りて活動することはあまりなく、飼育レイアウト内の植物や枝の上、もしくはケージの壁面を主な活動の場とするため、高さを重視したケージを用意してやろう。
  • 水分補給は水入れと霧吹き、2つの「水」で行う。すなわち、物理的な吸水と、空中湿度の調節である。

なお、アマガエルの野生での生息環境は房総半島でみたヘビ・カエル・トカゲで紹介しています。この時は林の近くの田んぼでみかけました。野外採集した生体を飼育する場合には、生体の採集地の環境が参考になるはずです。

両生類飼育専門施設における二ホンアマガエル飼育環境

それでは、プロによる実際の飼育環境を見てみましょう。カエル専門の飼育施設や、日本有数の両生類飼育施設などから、中型、大型、小型のケージサイズ別に全6カ所ご紹介します。

1.東山動物園自然動物館のアマガエル飼育ケージ(中型)

東山動物園自然動物館のアマガエルケージ
上部の枝の分かれ目と、奥の茂みの葉の陰にカエルがいる

日本産両生類の飼育では日本有数の規模を誇る東山動物園自然動物館。ここの飼育レイアウトは、大磯系の砂利を床材とし、木の枝にポトスを絡ませる構成でした。大磯砂の地面を流木や岩で区切って、底面積の5分の1くらいを水場としています。左側に散水口、水場のなかには排水口が見え、給排水はしやすそうです。

植物として使われていたポトスは、複数の飼育参考書でケージ内に入れるおすすめの植物として名前が挙げられていました。ポトスは、枝に絡ませて木のような立体的な形とする、という使い方もできるんですね。

こちらは、別の時のレイアウト。ケージ中に植木鉢が入れられており、使われていたのはガジュマル。

東山動物園のアマガエル

鉢から幹が3本、細長く伸び、枝分かれして小さな葉っぱがついています。その葉っぱに貼り付くようにアマガエルが数匹。写真の赤丸の部分に1匹ずつ、青丸の部分に3匹います。

この時の床材は、しっかりと水を含ませたヤシガラのチップ。手のひらサイズの水入れも置かれていました。

また別のタイミングでのレイアウト。ディフェンバキアという水平に大き目の葉が広がる観葉植物を植えています。アマガエルは、葉っぱの上にペタリと乗っています。

東山動物園のアマガエルレイアウト

この時は、那智黒石がヒタヒタの水に浸かったエリアが1/5程あり、その他のエリアも湿り気のある床材が使われていて、空中湿度は高そうな環境でした。

2.あわしまマリンパークカエル館のアマガエル飼育ケージ(中型)

80種類以上のカエルを飼育しているあわしまマリンパークカエル館。ここでは、カエルの種類に応じた生息環境が用意され、アメリカアマガエルやアカメアマガエルなど、〇〇アマガエルのケージだけでも沢山あります。そんなカエル専用飼育施設のアマガエル飼育ケージがこちら。

あわしまマリンパークカエル館のアマガエル飼育レイアウト

ケージはアクアテラリウムで、底面に赤玉土系のソイルを敷き、水を10センチ弱くらい入れています。水中には、アナカリス。ケージ上部は網、右下には排水設備らしきものが見えます。

岩で仕切られた部分が陸地となっていて、高さのある観葉植物と木の枝が立体的に配されています。

カエル館のケージ上部付近のアマガエル

カエルは、陸地の上にも植物上部にもいました。

3.井の頭自然文化園水生物館のアマガエル飼育レイアウト(大型)

つづいて、大型のケージをもつ飼育施設から。季節限定のケージということですが、印象深かったのが井の頭自然文化園水生物館のカエルハウス。アマガエルの飼育ケージとして、ちょっとした小屋を建てていました。

井の頭自然文化園のアマガエル飼育ケージ、カエルハウス

飼育小屋は、前面がガラス、背面が木の板、両サイドは通気性の良いメッシュ素材を使用。直射日光が入りすぎないよう、屋根も整備されています。

井の頭自然文化園のカエルハウス内部の様子

ケージ内の植物は、日本在来の庭木「ヤツデ」を使用。確かに、日陰を好み、乾燥が苦手という種類ですので、これはいいセレクションです。形としても、立体的で、鬱蒼とせず、葉が大きくて、見映えがします。

底面にはヤツデを取り巻くように浅い水場を配し、土の部分にはシダなどの下草を生やしていました。

4.Kawazooのアマガエル飼育環境(大型)

カエル専門の飼育施設、Kawazooの飼育設備も見てみましょう。Kawazaooでは、日本産カエルは屋外で飼育されています。アマガエルには、建屋の外壁沿いを区切った一角が用意されていました。

ここですごかったのは、アマガエルの数。下の写真で見つけられるだけでも9匹います。どのカエルも栄養状態がよく、健康体でよく動き回っていて、見える場所まで出てきたり、繁みに引っ込んだりしています。

Kawazooのアマガエル飼育ケージ

ケージ内は、大型のシダが密生する環境。誰もが用意できる飼育環境ではありませんが、一見の価値はあります。なお、ここにはアマガエルとしては大型になる対馬のアマガエルも飼育されていました。

5.足立区水生物館のアマガエル飼育レイアウト(小型)

最後に、比較的小さなケージでの飼育例を2つ紹介します。ひとつ目は、足立区生物園のアマガエル飼育レイアウト。アクアテラリウムで、底砂は大磯とし、10センチ弱の水が入っています。左後方には木の枝を配し、ポトスらしき植物も見えます。飼育ケージの上部はメッシュで、右横から開閉する仕組み。カエルは、両脇のガラス面の上方に貼りついているのが見えます。

足立区生物園のアマガエル飼育レイアウト

よくみると、陸地はレンガの上に乗った容器でした。大磯を敷いた水深10センチくらいの水槽にレンガを入れ、その上に目立たないよう黒っぽく着色した容器(深さのあるタッパー。百円ショップで売っているようなもの)を乗せたつくり。容器には土が入れられ、植物が植えこまれています。容器を覆い隠すように流木が配されているため、自然な感じに見えます。

足立区生物園は、市販されているような器具をつかって、ものすごくキレイなレイアウトを作っています。アマガエルケージも、なかなか工夫されていました。

6.茶臼山高原カエル館のアマガエル飼育水槽(小型)

小型ケージ飼育例の2つ目は、茶臼山高原カエル館から。ここは根羽村という標高の高い場所にあり、涼しくて空中湿度が高い、カエルにとって恵まれた環境です。

根羽村カエル館水色アマガエルケージ(横から)

水色のアマガエルが、こんもりとした茂みの左上あたりに見えます。ケージは、薄く敷いた湿った砂利の上に、アイビー(ヘデラ)の鉢植え、タッパーの水入れ、コケを配する構成。

アマガエルは力が弱く、ヒキガエルの様に水入れをひっくり返したりはしません。樹上性で広い水場も必要ないことから、小さなタッパーを水入れとして置いておくのはいいアイデアだと思います。

アマガエルの飼育レイアウトに必須と言える植物は、園芸店などで手に入れやすく、メンテナンスもやさしいヘデラ。葉の大きさと厚みが適度で、こんもりまとまって見た目もきれいです。

根羽村カエル館アマガエルケージ

水色でない普通のアマガエルのケージもありました。カエルはガラス面の上部・フタの直下に貼りついて映っていませんが適度に太った健康個体です。ケージ内にはコケが敷き詰められ、アイビーの鉢植えと灰皿の水入れ、ミルワームが入った白いプラスチック製のエサ皿が置いてありました。

ニホンアマガエルは半水棲よりの樹上棲で、乾燥対策も重要

ニホンアマガエルは、飼育環境のカテゴリー上、よく樹上棲カエル/ツリーフロッグに含めて扱われます。ただ、実際にいくつかの動物園や水族館を見て回ると、上で取り上げた場所以外も含めて、水場を広くとったケージで飼っているところが多くみられました。

プロはどうしてこういった設備でニホンアマガエルを飼育しているのでしょうか。

まず一つ考えられるのは、ニホンアマガエルはかなり半水棲よりの樹上棲だからということ。カエルの飼育を考えるとき、樹上棲(モリアオガエル)、地表性(ヒキガエル)、半水棲(トノサマガエル)、水中棲(アフリカツメガエル)といった分類は、確かにワンフレーズでうまく生息環境を表現していて便利です。しかし、個別にみていくと、半水棲よりの地表性とか、半水棲よりの樹上棲とか、なかでも渓流付近を好むとか、実際は多種多様なはず。

アマガエルは一般的に樹上性に分類されますが、田んぼでよく見かける種類でもあります。同じ樹上性のイエアメガエルが、水中に入ってすばやく泳ぐことは無いでしょうが、アマガエルは後ろ足で水を蹴ってスイスイ泳げます。このあたりの性格をレイアウトに反映させると、水場が充実した樹上棲向けケージという答えになるのでしょう。

田んぼの中のアマガエル

もうひとつ考えられる理由は、体が小さいだけに、万が一の乾燥が致命的だからということ。

活動範囲が地表でない樹上棲ガエルにとっては、立体的に活動できる空間さえ用意しておけば、床面・床材は何でもよいはず。であれば、乾燥という事態を防ぐため底面を水場としてしまうのも手です。実際、カエル専門の動物園Kawazooでは、樹上性カエルの縦型ケージの相当数で、底面を水場にしていました。アマガエル水槽でも、乾燥に対する保険的な意味合いから、そして湿度管理の面から、床面を水場とする意味は大きいのではないかと感じました。

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