コケを身にまとったかのような姿で、周りの環境に溶け込む様子が印象的なベトナムコケガエル。比較的飼いやすく、繁殖も狙える種類のようですが、飼育に関する情報は意外と見当たりません。プロはどのような飼い方をしているのか、動物園・水族館での展示を見てきましたのでご報告します。
目次
コケガエル(ベトナムコケガエル)の飼育環境
プロの飼育環境を見る前に、詳しい参考書でコケガエルの項を確認してみます。コケガエルは最近になって流通しはじめた種類ですので、古い参考書には載っていません。
冨水明、海老沼剛著「爬虫両生類の上手な飼い方」によると、コケガエルは、
・渓流付近に生息しており、見た目は樹上性のようだが、飼育下では地上部の石などの上や水入れに半分浸かったような状態でいることを好む。暑さにはあまり強くないため、夏場は風通しの良い場所で飼育すること。
とされています。
海老沼剛著「お茶目なカエルと暮らす法 かえる大百科」には、次のような記載があります。
・樹上生種のくくりで紹介したが、完全な樹上生種と言うよりも、渓流の岩の上や井戸の水の中に半身を浸してじっとしていることが多い半樹上生種。渓流付近の木の洞や窪みに住む。ベトナムの固有種で、発見されにくいこともあって希少な種であるとされていたが、繁殖が比較的容易で飼育下でもよく殖える。現在は流通の半数以上が繁殖個体。丈夫で餌付きも良く、見た目以上に飼育しやすい。
こちらの本には、コケガエルのオタマジャクシの写真も載っています。興味深い姿ですので、ご一読をお勧めします。
札幌市円山動物園のコケガエル飼育ケージ
温湿度・日照等の飼育環境を細かく意識した飼育をしている札幌市円山動物園のコケガエル飼育レイアウト。
水場と陸地を設け、それぞれの面積は半々ほど。陸地には湿った土に観葉植物、マメヅタ、シダ類を植えています。水場は、コケガエルが立てる深さ。カエルは水に体を浸しています。
コケガエル展示のキャプションには、「アオガエル科」「体表にイボ状の小突起をもち、体色をコケに似せることで、周囲の環境にカムフラージュしている。ベトナムに生息し、渓流付近の木の洞やくぼみに住む。樹上棲だが水中にいることも多い。動物食で昆虫などを食べる。」などとありました。
アクア・トトぎふのコケガエル飼育ケージ
「みつけてみてね!生き物たちのかくれんぼ」という擬態する爬虫類両生類の特設展示をしていたアクア・トトぎふ。擬態の様子を示すための凝ったレイアウトで、常設展示のケージではありませんが、興味深いのでご紹介。
展示の趣旨から、コケを多用したレイアウトとなっています。全体を水場とした上で、土とコケで水がヒタヒタになるくらいの高さの陸地を造り、コケを生やした流木を配する構成。
ここでは、コケガエルは、水中でなく木の枝に登っていました。
キャプションには、「常緑樹の森林や岩が多い急な崖に生息しています。岩穴や木のうろの水たまりに卵を産みます。」とありました。
ロンドン動物園爬虫類館のコケガエル飼育ケージ
大英帝国が世界の動物を集めたロンドン動物園爬虫類館のコケガエル展示。
アクアトト・ぎふのキャプションで「急な崖に生息」とありましたが、まさに崖のようなレイアウト。上部から水が流れる仕組みで、崖に沿ってポトスが這わされています。水べりにウィローモスの生えたスペースがあったり、崖に足場となる凸凹があったりしますが、平らな地表の部分は多くありません。
水深は10センチ以上あり、カエルの足がつかない深さ。水中には岩やウィローモスの塊が配されています。カエルたちは水に入り、崖やガラス面につかまっていました。
キャプションには、「Food Live Invertebrates」とあり、やはりコケガエルは生きた無脊椎動物を食べているようです。
繁殖に成功した鳥羽水族館での機能的なコケガエル飼育ケージ
最後は、コケガエルの繁殖に成功しその過程を展示していた鳥羽水族館での飼育環境。
上部が網になっている市販のケージのなかにプラケースを置き、水場としています。コケガエルは地表をうろうろするタイプのカエルではないので、床材はなし。メンテナンスが簡単で、機能的な形です。
プラケースの外、つまり陸地部分には、コルクバーグが立てかけられています。コルクバーグには、貼り付くコケガエルの姿が一匹。ほぼ垂直の場所にしっかりとまる姿は、水場を好みながらも樹上性に分類されるカエルであることを感じさせます。
プラケースの方は水で満たされ、深さのある水場となっています。中にはヘゴ板と木の枝が入っていて、しがみつく場所を提供しています。ヘゴ板と木の枝には、それぞれコケガエルが一匹ずつ。
ヘゴ板は、ランなどを着生させる素材として売られている園芸用品で、安価に入手できます。着生植物への水やりを前提としているので、適度に水を含みつつ、腐りにくい素材です。
鳥羽水族館のケージは、プラケースやコルクバーグ・ヘゴ板といったアイテムをうまく活用して、シンプルながらとても機能的な水場環境を再現していました。
コケガエルの繁殖
さて、その鳥羽水族館では、コケガエルの繁殖に成功したようで、その過程が展示されています。
展示によると、5月10日に初めての産卵があり、7月末までに約8回の産卵が観察されたとのこと。産卵数は15~30卵で、幼蛙になるまで約3ヶ月弱かかったそうです。
以下、展示よりそのプロセスを引用すると、
- 水上の木や岩に産みつける
- 2週間でふ化し、水中へ
- ふ化後1ヶ月で後肢が出る
- ふ化後2ヶ月で前肢が出る
- ふ化後2ヶ月半で幼蛙
となっています。
海老沼剛著「お茶目なカエルと暮らす法 かえる大百科」には、コケガエルのオタマジャクシについて、「本種の場合、四肢が生えそろってから尾が吸収されるまでがわりと長く、長い尾をもつカエルの姿のまま、しばらく水中で活動する」とあります。実際には、上記のような経過をたどるようです。
プロの飼育レイアウトをみて・・・
コケガエルは、アオガエル科ではあるものの、一般的な樹上性カエル飼育レイアウトより水を意識したレイアウトで飼育されていました。エサを食べる場面を見ることはできませんでしたが、キャプションによればアオガエル科らしく昆虫食のようでした。コケガエルを飼育される方は、参考になさってください。
ピンバック: 見せ方に工夫あり!ロンドン動物園爬虫類館の屋内展示 | 爬虫類両生類 餌・すみか研究所
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