通常、動物園でしかみられないような動物は、どうやってそこにやってくるのか。「動物の値段」は、そのプロセスについて、取引を手掛ける側の立場からみた世界が語られている本です。
著者の白輪剛史さんは、小学生の頃から自宅周辺の野山にいる生き物を捕まえ、飼育していた方。当時は「動物博士」と呼ばれ、動物園の飼育係になりたかったそうです。小学3年生以降は爬虫類に関心が移り、執筆時点では海外から爬虫類を輸入して、全国の動物園やペットショップに卸す動物商をされています。
この本は、25種類の動物について、個別に項をたてる形で進んでいきます。著者の専門は爬虫類ですが、取り上げられている動物は、ライオン、キリンからタンチョウ、シーラカンス(!)まで幅広く、爬虫類ではヘビ(コブラ、アナコンダ、ガラガラヘビ)、カメ(ミシシッピアカミミガメ、ゾウガメ)、トカゲ(餌ヤモリ、グリーンイグアナ、コモドオオトカゲ、ハナブトオオトカゲ)、エリマキトカゲの項が設けられています。
それぞれの項では、飼い方、原産地からの運び方、需給、法律上の手続きなどについて、著者とその動物とのエピソードをまじえながら触れられています。これらの要因の結果としてその動物の値段がどれくらいになるのか、金額もでてきます。
1つ1つのエピソードは読んでいただくとして、全般を通して感じたことは2つ。
一つ目は、動物輸入商という仕事が、かなりエキサイティングな仕事だということ。
動物輸入商の仕入れは基本的に外国との取引なので、動きはグローバルです。著者の体験談にも、買付先の国における、海千山千の相手とのやりとりが出てきます。輸出の許可をスムーズに得るために、相手国政府関係者と人的ネットワークを築いたりといったことも必要になるようです。
また、動物の輸出入には様々な法律上の規制があります。法律や手続きの進め方について、日本だけでなく相手国のことについても熟知したうえで、公的機関相手に申請を通していくという作業は簡単ではありません。
売れる種類や需給関係などトレンドを読む力も求められ、動くお金も億単位。その上で、生き物である動物に関する深い知識が求められます。これらを総動員して取り組まなければならないのが、動物商という仕事。その仕事内容は、とても難しく刺激的だと感じました。
二つ目は、動物の取引において、物理的な運搬(=ロジスティクス)がかなり重要な要素となっているということ。
命あるものを運ぶわけですから、運搬中の環境を整えるには特別な工夫が必要です。力の強い動物の運搬には、頑丈なケージの用意が欠かせません。そもそも輸送ルートを考え、引き受けてくれる輸送業者を手配するのも一苦労のはず。こういった事情から、価格のうち運搬費用が相当な部分を占める動物もあるようです。キリンやシャチの運び方は当然気になりますが、コウモリ、サソリなど意外な動物を運ぶ苦労も興味深いものでした。
このサイトでは、各地の爬虫類両生類展示施設の紹介をしています。こういった場所で動物が見られるのも、動物商の存在あってこそ。動物園・水族館に爬虫類両生類を見に行く人、ペットショップで爬虫類両生類を購入する人には、一読していただきたい本です。