大都会でも見かけることが多い、もっとも身近な両生類・ヒキガエル。実は、
- 大きすぎず小さすぎずの適度な大きさ
- エサの確保が比較的容易
- 自然に任せた温度管理が可能で、特殊な飼育環境を要求しない
- 臆病過ぎず、ある程度人慣れする
- 長生き
といった特徴をもっていて、飼育しやすいカエルです。
このサイトは、そもそもヒキガエルのオタマジャクシの飼育をきっかけにはじめたサイトです。おたまじゃくしと、上陸後の子ガエルの飼育についてはブログ形式で投稿がありますが、親であるヒキガエル成体のページはありませんでした。
遅ればせながら、ヒキガエルの親(成体)の飼育についてまとめてみました。
目次
ヒキガエルは、普段は水に入らない
自然のヒキガエルの、普段の姿とは?
一般の人がヒキガエルを見かける機会といえば、早春に産卵のため池に集まっているタイミング。もしくは、産卵のために一斉に冬眠から目覚め、水場に向かっているタイミングではないでしょうか。
しかし、水の中に集まって産卵するあの姿は、ヒキガエルにとって年に一度のイベント。普段の生活の姿ではありません。
では、「普段の姿」はどういったものなのか、どういったところで生活しているのか、詳しい文献の記載を確認してみましょう。
「ニューワイド学研の図鑑 爬虫類・両生類」のアズマヒキガエルの項(P100)には、
- 低地から高山地帯にまで広く分布し、庭や農地から森林までのさまざまな場所で生息しています。昼は石やたおれた木の下などにかくれ、夜間や雨上がりに活動します。
とあります。
実際に、繁殖期の水場以外で彼らを見かけた時の写真がこちら。
上の写真は、盛夏の東京の住宅街の植え込みの中にいたヒキガエルです。サツキやツツジの植え込みの中には、枝や葉が少ない木の根元部分に、物陰となる空間が出来ます。ヒキガエルは、普段はこのような空間にいることが多く、このような場所にいる餌を食べています。
こちらの写真は、広葉樹が生える関西地方の山の中を歩いていたヒキガエル。隠れ家となる岩に向かって歩いていて、このあと岩穴に入っていきました。
ヒキガエルは、こういった地面から入れる位置にある岩の隙間をすみかとすることがあります。かつて私の曾祖母の家の庭には大きな庭石があり、地面との間に、こぶしが入るくらいの穴のような隙間があいていました。子供のころ、中に何かがいるのではないかと思ってホースでその穴に水を注入したところ、ヒキガエルが出てきたことがあります。
普段の彼らの姿を、飼育環境に反映させる
ヒキガエルの飼育で気を付けたいポイントは、このような普段の生活スタイルを、飼育ケージのレイアウトに反映させること。すなわち、
- 普段は水に入らない→ケージ内に水棲・半水棲ガエルのような、広い水場は不要
- 普段は木に登ったり、壁に貼りついたりしない→樹上性ガエルのような高さのあるケージ、居場所としての植物は不要
であり、
- 主な活動エリアである地表=床面のスペースが広いこと
- 主な活動エリアである地表=床材に配慮が必要なこと
- 隠れてじっとしていられる物陰があること
といった点に留意が必要です。
プロのヒキガエル飼育環境
それでは、両生類飼育の専門家たちが実際にどのような環境でヒキガエルを飼育しているのか、みてみましょう。
草津熱帯圏のアズマヒキガエル飼育ケージ
まずは、爬虫類・両生類飼育施設の老舗、草津熱帯圏のケージから。
ケージは、90㎝サイズの水槽。底面には鉢底石のような白い石が敷き詰められ、その上に黒色のソイルが敷かれています。カエルが潜ったりするからでしょうか、一部、鉢底石が上に出ている部分もあります。
水場は、きれいな水をたっぷりと湛えた大きな鉢受けがひとつ。ケージ内には流木・石を配し、ヒキガエルは流木の陰に隠れていました。
足立区生物園の飼育環境
続いては、やや小ぶりのケージを使っていた足立区生物園の飼育環境。
床材は、たっぷりの腐葉土。細かくなった落ち葉がまだ形をとどめているような、フカフカな腐葉土が、深く厚く敷かれています。
なかには、大きな流木が置かれています。ヒキガエルはこの流木の下の腐葉土を掘って、半分体を埋めるような形で過ごしていました。
カエルの飼育設備としては珍しく、水場はなし。ケージがややコンパクトなため、水場をつくると狭くなること、カエルが水入れをひっくり返して床材がびしょ濡れになることを考えれば、合理的な選択です。
ちょっと寄り道:ネットにいれた鉢底石と腐葉土の組み合わせ
冒頭で、このサイトをはじめたきっかけはヒキガエルのオタマジャクシ・子ガエル飼育であることに触れました。その当時、用意していた床材が、草津熱帯圏と足立区生物園のハイブリット型。
具体的には、カエルが潜ったりして腐葉土と混じらないように、ネットに入れた鉢底石を一番下に敷き、その上に昆虫飼育用の腐葉土をかぶせていました。
大きい水場は用意せず、水分は床材でしっかり保つ前提。腐葉土の湿り気を保つために水は補給しますが、排水性を考えて下には鉢底石を配しました。腐葉土は、肥料などがふくまれず安全性の高い昆虫用マットを採用。
ヒキガエルがいた場所の環境にできるだけ近づけるため、採集時には付近の地面の環境をよくみておくとよいと思います。
茶臼山高原カエル館のヒキガエル飼育レイアウト
さて、プロの飼育環境に戻って最後にご紹介するのが、茶臼山高原カエル館のヒキガエル飼育レイアウト。飼われているヒキガエルはかなりの長寿ガエルとのことで、飼育環境は参考になります。
ケージは90㎝大サイズの水槽で、床面には湿らせたミズゴケが入れられています。水場は、ガラス製の重そうな灰皿を使用。このほか、エサ入れと思われる白いプラスチック製のお皿も置かれています。
目立ったシェルターらしきものはありませんが、これはふれあいや餌やりができるという趣旨からでしょう。
ここのカエルはかなり活発に動き回っており、水入れに浸かる姿が何度か見られました。力のあるヒキガエルでもひっくり返しにくい重量感のある水入れ、引っ搔き回されても大丈夫なミズゴケと、力のあるヒキガエルが活発に動き回っても乱れにくいレイアウトでした。
飼育書で、エサを含めた飼育方法を再確認
それでは、改めて信頼できる飼育書からヒキガエルの飼育方法を引用してみます。
- ケージの床には落葉・砂・土を混ぜたものを敷き、掘って体を潜らせられるようにする。この床材はときどき交換し清潔を保つ。浅い水場を設けてもよいが不可欠でなく、そのときはひっくり返されたりしないようにセットする。むしろ水はスプレイして与えるほうがよい。やたらじめじめするのはよくなく、わずかに湿っている程度でよい。日中に光が当たって急に温度が上昇したりせぬように鉢等でシェルターの日陰部を作っておく。ミミズ・甲虫・ザリガニ・毛虫・ピンキー等を食べる。一定位置の皿等に入れて与えてやるとやがて覚える(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P16二ホンヒキガエルの項より)
- 繁殖期以外はほぼ水に入らないため、自然の少ない都会でも普通に見られる種。(中略)その姿から好みは分かれるが、非常に飼いやすい種であり、飼育下ではツノガエル用の人工飼料なども食べるようになる。腐葉土やヤシガラなどを敷き、水浴び用のタッパーを置くなどし、あまりビショビショにしないようにして飼う。(冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」P182二ホンヒキガエルの項より)
餌については、
- 夜間徘徊し、ミミズやナメクジ、オサムシなど大きな虫も食べるが、アリやワラジムシなど小さなものを数多く食べることが多い(海老沼剛著「かえる大百科」P78二ホンヒキガエルの項より)。
- 季節によって異なるが、ヒキガエルは甲虫類・半翅類・直翅類などの昆虫類のほか、クモ、ダンゴムシ、ミミズ、カタツムリなど、地表にいる小動物のほとんどを餌にする。(「週刊朝日百科 動物たちの地球98 両生類・爬虫類② スズガエル・ヒキガエルほか」P5-50より)
とあり、要は地表を動き回っているものを食べているわけですが、購入しやすいのはコオロギやミミズ、ミルワーム、人工飼料でしょう。
ヒキガエルは、このサイトをはじめるきっかけともなった、身近で親しみやすい生き物。近所で出会うのを楽しみに、大切にしていきたいカエルです。