ニホントカゲの飼い方で押さえるべき3つのポイント

ニホントカゲと言えば、日本在来の3大トカゲ=トカゲ、カナヘビ、ヤモリのうちの一つ。成長度合いや雌雄によって、ブルーや漆黒、金褐色と様々な色合いを見せるメタリックな姿は、憧れの対象です。

アクアトト・ぎふのヒガシニホントカゲ

といっても、小型で、ほぼ全国に生息する身近さゆえに、なかなかちゃんとした設備で飼われないケースが多いかもしれません。ニホントカゲは、狭いプラケースに閉じ込め、玄関に置いておくだけではいずれ弱ってしまいます。

ここでは、そんなニホントカゲをきっちり飼い込むためには何が必要が、名高い飼育書とプロの飼育設備から読み解いていきます。

有名飼育施設のケージ・飼育環境を概観

各論に入る前に、お手本となりそうな飼育施設におけるニホントカゲの飼育環境をざっと見てみましょう。

まずは、広島市安佐動物公園の飼育環境。

安佐動物公園のニホントカゲ

ケージ内には、スポットライトがあてられた木の枝が一本。加えて、岩や落ち葉、人工植物が配されています。乾いた環境ですが、大きな造り付けの水入れがあり、木の枝と石が中に入れられて水場にアクセスしやすいようになっています。

続いて、広いスペースをつかって自然環境を再現した札幌市円山動物園の飼育ケージ。

札幌市円山動物園のヒガシニホントカゲ

なかにはシダ植物が何株か植わっていて、しっかりと葉を広げています。飼育スペースがあまりに広くて、全体像を写すと個体が小さくてほとんど見えません。ということで、個体のアップはこちら。

円山動物園のヒガシニホントカゲアップ

艶やかで健康そうな個体が2匹、いずれもサイドの擬岩の部分で日光浴をしていました。他にも何匹か個体はいるのでしょうが、密に茂る植物に隠れてしまってみることはできません。

最後は、日立市かみね動物園のヒガシニホントカゲ。

日立市かみね動物園のヒガシニホントカゲ

ミニチュアの石垣を再現したケージ内には、土の上に大きな石が置かれ、僅かですが植物も植えられています。なかは散水直後だったようで、落ち葉の窪みに水がたまっていたほか、床材の土がうっすら湿っていました。

さて、ご紹介した3つの写真は、実は粘って撮ったベストショット。というのも、ニホントカゲは常に姿を見せてくれるわけでなく、隠れてしまって出てこないことが多いのです。

すぐに隠れられる・潜れるシェルター

例えば、日立市かみね動物園の先ほどのケージ。ベストショットの写真では2匹が映っていますが、基本的には木の皮や落ち葉の下に潜っていました。潜っている状態がわかる写真は、こちら。

木の皮や落ち葉の下に隠れていることが多かった

安佐動物公園も同じ。ベストショットは枝の上で日光浴をしている状態を載せましたが、日光浴が終わると、枯葉の中に頭を突っ込んで姿が見えない状態に。

日光浴がおわると、枯葉に潜りこんでいった

上野動物園やアクアトト・ぎふにいたニホントカゲも、動き回ったあとは、隠れ場所を探して土に潜ったりといった行動が見られました。

極端だったのは、沖縄こどもの国で飼育されるの近縁のスキンク・キシノウエトカゲ。「お昼を過ぎると隠れてしまうことがありますので、観察は午前中がオススメです」とのことで、粘ってもついに姿を見ることはかないませんでした。

ニホントカゲは、自然でも、隠れているか、日光浴をしているかのどちらかの場合が多い気がします。日光浴をするにせよ、すぐにささっと隠れられる場所でやる。動き回るのも同じで、常に茂みの近くにいて、人の気配を感じるとすぐに駆け込んでしまいます。

飼育書の記載をみても、

  • テラリウムで飼い、よく潜るので床には土を敷くとよい。ホットスポットに石や倒木を置くと、その下がシェルターになって良い(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P34)
  • 飼育のポイント:特に雄の場合は、一緒に飼うと激しく争うことがあります。~中略~また、シェルターは不可欠です(富田京一著「ザ・爬虫類&両生類」P55)

と、隠れ場所=シェルターについて触れられています。

石の下に潜るアクアトト・ぎふのニホントカゲ

そんなニホントカゲですから、飼育ケージ内には隠れやすい場所をつくってやらなければなりません。鑑賞上は不便かもしれませんが、後述の様にかならず日光浴をしますので、そのタイミングを気長に待てばよいだけ。

シェルターは、狭い出入口を持つ容器型のようなタイプでなく、厚めの床材と、ささっと隠れられる枯れ葉や木の皮を用意する方がよいでしょう。すなわち、安佐動物公園やかみね動物園のスタイルです。

日光浴の代わりとなるバスキング・紫外線設備は必須

前項で、ニホントカゲは隠れているか日光浴をしているかのどちらか、と書きました。どちらか、というのは極端な話ですが、ニホントカゲが日光浴を好むのは事実。飼育書の記載も、次のようになっています。

  • 日光浴を兼ねて1日1回は高温にする(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P34)
  • 温度:室温にまかせてかまいませんが、きっちり日光浴する種類なので、昼間のある時間は必ず35℃程度のホットスポットを設けましょう(富田京一著「ザ・爬虫類&両生類」P55)
日光浴をするヒガシニホントカゲ

昼行性トカゲは、日光浴を好みます。これは、

  • 骨格=カルシウム生成に必要な紫外線要求量(UVB)が高いこと
  • 変温動物の宿命として、活動のための体温調節を太陽光に頼らざるを得ないこと

によります。

ライトにあたる安佐動物公園のニホントカゲ

ニホントカゲの飼育環境には、この日光浴ができる機能が必要です。ただし、ケージを太陽光が直接あたる場所に置く、というのは、ケージ全体が一気に温度上昇して逃げ場がなくなるなど調整がききにくいため、お勧めできません。

再び、各飼育施設での対応を見てみます。

安佐動物公園では、複数のライトを用意した上で、ケージ全体の温度が上がらないように木の枝を中心に照射して、メリハリをつけていました。

安佐動物公園のニホントカゲ照明

円山動物園も、写真のような照明設備で全体を照らした上で、壁面の擬岩の上で日光浴をさせる造り。シダの下に隠れれば暑くなりすぎることはないはずです。

円山動物園のライト(ニホントカゲ)
ベストショットとは別のタイミングでの写真。照明器具はメタハラ系か。

かみね動物園は、上2つに比べてケージ自体が小さめ。スパイラル蛍光管型のライトをつかって過度の温度上昇を防止しつつ、ミニチュア石垣や大きな石の上で日光浴をさせるレイアウトです。

かみね動物園で使われていたライト

これらの飼育施設で使用されていたような、人工的に日光浴が出来る機能をもった爬虫類用ライトは、いろいろあります。当サイトでも、どう違う?爬虫類用ライトの種類と役割【メタハラ・バスキング・UVB】で紹介していますが、かならず熱源(バスキング)機能とUVB照射機能の両方を用意することが必要。ニホントカゲの大きさにあったケージで使用するなら、熱源機能はケージ全体の温度が上がりすぎないよう小型の製品を使うのがおすすめです。

(熱源・UVA照射機能)

(UVB照射機能)

エサはコオロギが基本だが、いずれ動かない人工飼料に餌付けも

最後は、エサの話。小型トカゲのエサと言えばコオロギが定番で、ニホントカゲの場合でも、栄養価や入手可能性の観点からコオロギが文句なしの第一選択肢になります。

第一選択肢はコオロギですが、好むようであればカルシウムが豊富なワラジムシもよいでしょう。ワラジムシについては、当サイトでも、近所で採集出来て、簡単にふやせる極小サイズの餌・ワラジムシで紹介しています。

道路脇で見かけたニホントカゲ

ただ、意外にも、餌として複数の飼育書に共通して挙げられていたのが「肉片」です。

  • 餌は虫・クモ・ミミズ・ワラジムシ・肉の小片等(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P34)
  • 国産トカゲの中では食性の幅が広く、飼育下で肉片や人工飼料に餌付く個体もいる。~中略~ また、カルシウム不足になりやすい(冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」P180)
  • エサ:昆虫やクモ、ミミズなど、小型の無脊椎動物を食べます。ニホンカナヘビよりも神経質で、なかなか餌付かないことがありますが、一度うまくいくと肉片なども食べるので楽です。また、細かく切った果物を与えると食べる場合もあります(富田京一著「ザ・爬虫類&両生類」P55)
シダの陰に隠れる円山動物園のニホントカゲ

昆虫食の爬虫類・両生類を飼育する上で、最大の課題は生き餌の継続的な確保。動くものでなければ餌と認識しない一部のカエルなどは、カエルの飼育と同じくらいエサの飼育にエネルギーを使います。

一方、動き回る昆虫を主食とするものの、動くことそのものがエサの条件でないのであれば、飼育の手間・難易度は一気に下がります。

飼育書でかかれていたニホントカゲのエサの記載をみると、ニホントカゲは動かないものでも餌と認識するようです。実際、干からびたミミズを食べるヒガシニホントカゲ【動画】を見たことがあります。

であれば、昆虫食爬虫類用の人工フードへの餌付けにトライしてみる価値はあるでしょう。

ニホントカゲは、身近にいる美しいトカゲでありながら、きちんとした設備でしっかり飼い込まれることが少ないトカゲ。飼育方法自体は小型トカゲの基本形ともいえるものですから、ポイントを押さえて丁寧に飼いたいものです。