爬虫類・両生類に関する事件を取り締まる現役警察官が、あつかった事件を振り返った本、「警視庁生きものがかり」。その中に、飼育する希少種のカメを盗まれて途方に暮れた動物園の飼育係が、長靴のまま最寄り駅まで犯人を捜しに行くくだりがあります。
このカメ盗難事件をきっかけに、警察とつながりが出来た動物園。以後、押収された爬虫類を預かったり、鑑定に協力したりといった関係が続いていきます。警察から持ち込まれた珍しいカメの繁殖に成功し、事件を担当した警官が子ガメを見に来るシーンなど、本の中で10ページ近くを割いて関連エピソードが紹介されているのが、これからご紹介する野毛山動物園です。
目次
野毛山動物園爬虫類館へのアクセス・行き方
野毛山動物園は、京急日ノ出町駅から徒歩10分、JR桜木町駅から徒歩15分の位置にあります。歩いて行けない距離ではありませんが、小高い丘の上にあるため行きは上り坂となること、駅からの道順が割と複雑(何回か曲がる)なことから、体感的には少し遠く感じるかもしれません。
動物園の入り口前にはバス停があり、横浜駅の東口バスターミナルからバスが出ています。20分程度で着きますので、バスを使って行くと便利です。
園内に入り、レッサーパンダやチンパンジーを横目に坂を登っていくと、銀色の倉庫のような平屋の建物が建っています。入口には、目立たない感じの「は虫類館」のプレート。中に入ると、建物ほぼ全体が、ワンフロアの展示スペースとなっていました。
力を入れるリクガメの展示
爬虫類館の展示で最も力が入っていたのが、カメ類、なかでもリクガメの展示。中央の一番目立つ位置に、リクガメ類のケージが並びます。
目玉は、日本ではここでしか見られないというヘサキリクガメ。マダガスカル原産で、カワイノシシによる卵の捕食などから一時期100頭位まで個体数が減少。保護・繁殖により増やしたものの、ある時70頭近くを盗まれるという何とも災難な過去を潜り抜けてきた種類です。野毛山動物園では繁殖に成功していて、生体の飼育スペース内の水槽にベビーがいました。
野毛山動物園爬虫類館には、大型種から小型種まで様々な大きさの生体が飼育されています。このうち、前述のヘサキリクガメやホウシャガメ、インドホシガメ、エジプトリクガメなど中型の種類は、三畳ほどの広さのガラス張りの飼育スペースで飼育されています。
一方、小型種のキバラクモノスガメや、リクガメの幼体など小さな個体は、見やすい様にガラス張り飼育スペース中の高い位置に水槽が置かれ、人の目線に近いところで展示されていました。このため、小さな個体でも、間近で見ることが出来ました。
大型のカメは、といえば、通路を挟んで反対側にある飼育場に、エミスムツアシガメが飼育されています。
このエミスムツアシガメ、
・アジア最大のリクガメ
・リクガメには珍しく、熱帯雨林の水辺近くに住む
・葉や果実を主に食べるが、肉類も食べることがある
というなかなか面白いリクガメなのですが、大型かつ外見が地味なこともあってか展示する施設はそう多くありません。ここでの多頭飼いのシーンは貴重です。
リクガメ以外のカメも注目
リクガメ以外のカメで、ここならでは、というカメがバタグールガメ。甲羅がクロウミガメ、首や手足がスッポンの様な姿をしたカメです。大きさは、成長したスッポンモドキをもうひと回り大きくした感じで、存在感があります。
野毛山動物園には2匹いて、広い水槽を泳ぎまわっていました。泳ぎも上手く活発な印象で、見ていて飽きません。
リクガメ以外のカメ類はこのほかに、トウブハコガメ、ハミルトンガメ、インドセタカガメ、ワニガメ、日本産種はリュウキュウヤマガメ、ニホンイシガメがいました。
様々な種類のカメで繁殖実績、リクガメの赤ちゃんが何匹も
野毛山動物園のカメ飼育は、単に種類が充実しているだけではありません。適切な餌や飼育環境を整えることにより、多くの種類で繁殖に成功しています。
実際に赤ちゃんガメが展示されていたのが、
・ヘサキリクガメ
・インドホシガメ
・キバラクモノスガメ
の3種類。
子ガメのケージは、いずれも湿り気のあるピートモスのような床材が入れられていました。餌は、小さく刻んだ葉物が与えられています。
孵化の様子を映像で流していたのが、インドセタカガメなど。このほか、リュウキュウヤマガメやハミルトンガメの繁殖実績もあるようです。
出口付近では、孵化を待つホウシャガメの卵の様子が、ガラス越しに展示されていました。水分を含んだ赤玉土のような土の粒の上に、プラスチックの人工芝を敷いた孵卵器が見えます。湿度管理のためか、隣には水の入ったタッパーに炭をいれたものが置かれています。入園者から見える位置に、湿度計、温度計も設置。リクガメの繁殖を狙う人にとって、これほど貴重な情報が得られる場所はそうありません。
野毛山動物園爬虫類館の台所
前項でご紹介したリクガメの卵は、バックヤード展示的なコーナーにありました。そのコーナーの奥にあったのが、餌を用意する台所。
訪問時はちょうど餌を用意していた時間だったので、まな板の上を見ることが出来ました。リクガメには、写真のように青草系のエサを使用。脇にはチンゲンサイらしきものも見えます。これらの餌の内容も、貴重な情報です。
カメ類以外の爬虫類も一通りカバー
さて、ここまではカメ類を中心に見てきましたが、野毛山動物園では爬虫類館の名前通り、カメ以外の生き物も一通りカバーしています。フロアの中には、ニホンヤモリやヒョウモントカゲモドキといった小型種から、アミメニシキヘビ・インドガビアルといった大型種までが揃っていました。具体的には、
ワニ類
・ニシアフリカコガタワニ
・インドガビアル
トカゲ類
・ミズオオトカゲ
・アオホソオオトカゲ
・グリーンイグアナ
・ヒョウモントカゲモドキ
ヘビ類
・アミメニシキヘビ
・ボールニシキヘビ(ボールパイソン)
を飼育。
日本産種のコーナーもあり、
・アオダイショウ
・シマヘビ
・ジムグリ
・シロマダラ
・ヒバカリ
・ニホンヤモリ
・ヒガシニホントカゲ
が飼育されているようですが、訪問時は冬だったため、冬眠中でした。冬眠はリスクをともなうため、ある意味させない方が楽な面もありますが、野毛山動物園ではしっかり冬眠させているんですね。
野毛山動物園爬虫類館は、リクガメ類を中心に、繁殖に成功するレベルの飼育環境を見せてくれます。大規模な施設ではありませんが、孵化設備などバックヤードの情報も得られます。
これだけの内容で、驚いたことに入園料は無料。リクガメ好きは、通い詰めてみてはいかがでしょうか。