トノサマガエル・ダルマガエルといえば、田んぼでぴょんぴょん跳ねる、昔からおなじみの日本産ガエル。
ところが、飼育に関する情報は、意外と多くありません。
手元の飼育書をいくつかみても、独立した項はなし。日本産種を細かくカバーする、大谷勉著「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」では、「跳躍力が強く、飼育には不向き」とされています。
一方、 星野一三雄著「両生類・爬虫類のふしぎ」では、著者おすすめの初心者にも飼いやすいカエルとして、トウキョウダルマガエルとトノサマガエルの名前が挙げられています。
いわく、「エサはペットショップで買えるコオロギでいい。保温や照明が必要ないのも手軽。ただしカエルなので水場が必要(P183)」。
この本でほかに初心者向けとされていたのは、
- 有尾類・・・メキシコサラマンダー
- ヤモリ・・・ヒョウモントカゲモドキ
- ヘビ・・・コーンスネーク
といった、納得のラインナップ。トノサマガエル・ダルマガエルも、基本的な飼育方法を間違えなければ、けっして飼育難易度は高くないのかもしれません。
実際のところ、上手く飼うにはどうすればいいのでしょうか。
目次
飼育書におけるトノサマガエル・ダルマガエルの記載
トノサマガエル・ダルマガエルに絞って飼育方法を詳説した本は、そう多くはありません。しかし、田向健一著「ザ・カエル 世界のカエルの飼育がわかる本」に、トノサマガエルやダルマガエルなど半水棲ガエルの飼育方法として、参考になる記載がありました。
記載は文章中心に4ページ(P182~185)と読み応えがあり、実際に手に取って読んでいただきたい内容ですが、以下、エッセンスとなる部分を抜粋引用します。
- この仲間を飼育するのであれば陸地と水場の両方を飼育ケージ内に作らなければなりません。したがってカエルの大きさに対して比較的大きめの飼育ケージを用意する必要があります。
- 具体的には各個体の大きさに合わせたプラケース、観賞魚用ガラス水槽、アクリル水槽などが利用しやすいでしょう。蓋がしっかりできるものを選びます。また大きくなる種類であれば、ホームセンターなどで入手できる衣装ケースも利用できます。衣装ケースを使うときには、蓋の部分に通気の穴をたくさん空けてから使うようにします。
- 水場にはホテイアオイやウォーターレタスなどの浮き草や、キンギョモ、アナカリスなどの丈夫な水草を入れておくと、カエル側と、飼育者側のお互いの目隠しにもなり、飼育環境に早く慣れさせることができます。
- 水深はカエルが水底に後肢を浸れて水面に目が出せるくらいの深さに調節します。あまり水深が浅いとカエルが落ち着きません。
- 餌は基本的には普通に入手できる昆虫類が主体になります。ペットショップで餌用として販売されているフタホシコオロギ、ヨーロッパイエコオロギ、ミールワーム、ジャイアントミールワームなどを与えます。
- 導入直後の慣れていない個体であれば、夜ライトを消す前にそっと陸場に餌を歩かせおくと翌日いなくなっていることが多いようです。
同書で挙げられている、飼育ケージなどの基本的な項目については、特に難しい感じはしません。生餌を準備する手間はかかりますが、流通量の多いスタンダードなもので大丈夫そうです。温湿度条件にうるさかったり、紫外線要求量が大きいなどといったこともなく、ハード面のハードルは高くないようです。
一方、神経質な性質、飛び跳ねてしまう問題については、次のように繰り返し触れられています。
- 半水棲のカエルはジャンプ力に注意しなければいけません。人に慣れていなかったり、環境が合わなかったりするといつまでも落ち着かず、ケージの壁や蓋に激突して吻端を傷つけてしまったり、運が悪いと即死してしまうこともあります。
- 購入したての個体や野生採集個体は、いつまで経ってもバタバタすることが多いので、慣れるまではケージの周りに紙などを巻いておくとよいでしょう。そして掃除、給餌などの最低限の作業にとどめて、なるべくカエルを驚かせないように心がけます。
- 飼育環境に慣れて落ち着くまではやや飼育しにくい一面もありますが、貪欲な種類も多く、いったん人に慣れると人影を見ただけで寄ってくる、そんな陽気な性格の一面も見せてくれます。
トノサマガエル・ダルマガエルを飼育する上で最大の課題は、跳躍対策、落ち着かせる環境づくりにありそうです。
野生再現系の飼育環境におけるトノサマガエル
飼育書における記載を踏まえて、各飼育施設における実際の飼育環境をみてみましょう。まずは、野生での環境を再現した、個人では用意できない規模の飼育設備をもつ施設からご紹介します。
魚津水族館のトノサマガエル
こちらが、魚津水族館の田んぼを再現した水槽。屋内なのに稲がきれいに育っていて、しっかり維持管理されていることがわかります。
トノサマガエルは、簡単には見つかりません。
よく探すと、田んぼ脇の茂み、写真の赤丸の部分に隠れていました。
このあと、飼育員の方がメンテナンスのために飼育スペースに入ると・・・
パッと飛び出してきて、水場に飛び込みました。
アクア・トトぎふのナゴヤダルマガエル、トノサマガエル
続いて、同じく水辺の環境を再現したアクア・トトぎふの飼育環境。ここでは、ナゴヤダルマガエルとトノサマガエルが飼育されていますが、やはりよく探さないと見つかりません。
いずれも手前の水場部分にはおらず、背後の陸地にいました。左側の濃い色の硬いシダの陰にじっとしているもの、中央・右側の薄い色のシダに隠れる位置で、土に窪みをつくって隠れているものが確認できます。
水辺の陸地の物陰がデフォルトの位置か
野生再現系の飼育環境をみると、トノサマガエル・ダルマガエルは、普段は陸地の茂みの陰にじっとしていることが多いようです。すなわち、デフォルトの位置は水場ではないのだと思います。ただし、何かあるとすぐに水に飛び込める位置にいて、実際に気配がすると、すぐに飛び込む。これは、田んぼのあぜ道を歩くと、カエルが跳び出してきて水田へ逃げこむ、おなじみの経験とも整合的です。
トノサマガエル・ダルマガエルの野生生息環境
ということで、実際の野生での生息環境を確認してみます。少し歩くだけで次々とカエルが跳び出す、カエルにとっての理想郷的な場所です。
赤丸の部分に、浅いせせらぎの様な流れがあります。背後の山からの水が、田んぼに流れこむ途中の水路です。
全体は、上のような感じ。ここにカエルがうじゃうじゃいます。まずわからないと思いますが、一匹は赤丸の部分にいます。
近寄ってみると・・・
カエルがいるのが見えます。場所は京都府ですので、ナゴヤダルマガエルか、もしかしたらトノサマガエルか。
ズームで撮ると・・・
オオバコの葉の陰に隠れている姿が見えてきました。これ以上近寄ると、ピョンと跳ねてせせらぎに飛び込むわけです。
近寄ったあと、あたりのカエルが次々と飛び込む動画がこちら。20秒ほどです。
野生での環境をみると、
- 最初から水中にはいない。基本は水辺の陸にいて、危険を感じるとすぐ水に飛び込む。
- 水場は、深くない。
- いる場所の見通しはよく、背の高い草木が茂っているような場所ではない。ただし、雑草程度の下草が適度に生えていて、体の色もあってうまく溶け込めるような環境。
- 辺りには、餌となるようなバッタなどの昆虫がたくさんいる。
といったことが確認できます。
中規模水槽でのトノサマガエル・ダルマガエル飼育例
ここまでで、野生での生息環境、野生再現系の大規模な飼育環境がどのようなものかはわかりました。あとは、個人それぞれが用意できる限りで、いかに理想に近い環境をつくるかです。
参考にしたいのは、中規模な飼育環境をもつ施設。つづいては、60センチ水槽を上手く使った、水場メインの飼育ケージと陸地メインの飼育ケージをそれぞれご紹介します。
水場メインの水槽で飼う、鳥羽水族館のダルマガエル
まずは、水場メインの鳥羽水族館の水槽から。
水深10センチほどの水槽内に、ウイローモスを活着させた大きな流木を置き、陸場としています。陸地部分にはリュウノヒゲ(ジャノヒゲ)が2株植えられており、葉が四方に広がっていました。このリュウノヒゲの葉の下が良い物陰となっていて、カエルはそこを定位置としています。
リュウノヒゲは耐陰性が強く、常緑の多年生植物。庭によく植えられるもので入手も用意です。鳥羽水族館のカエル水槽のリュウノヒゲは、陸地にしっかりと活着させた大株で、水槽内に見事な景色をつくりだしていました。
陸場メインの水槽で飼う、あわしまマリンパークカエル館
陸場メインのあわしまマリンパークカエル館の水槽はどうでしょうか。
あわしまマリンパークカエル館のトノサマガエル・ナゴヤダルマガエル水槽は、陸地の面積が水槽全体の1/2を超えています。水場部分は、1センチ大の赤玉系の底砂が敷かれていて、ところどころに手のひらサイズの岩が置かれています。オーバーフロー式の排水口がついていて、追加で水を注げば、水の入れ替えができる仕様です。
陸地は、複数の円筒形の容器を並べて囲ったエリアに土をいれて作られています。土は、水辺周辺の湿った感じがよく出ています。地表にはツユクサのような植物が茂っているほか、葉の広い観葉植物も植わっています。前項で見た、実際の野生環境にある下草とも近い感じです。
キャプションによれば、水槽内にカエルは6匹いるとのこと。全部は見つけられませんでしたが、何匹か植物の陰にいるものを見つけることができました。
上からの視線を遮るようなアイテムを入れたレイアウト
さて、ここまでの事例から、飼育環境のイメージはつかめてきました。残るは、複数の飼育書で難しい点とされていた跳躍力対策。各施設の対策をみると、
- 飛び跳ねてもぶつからないように、一定の広さのケージで飼育する
- 視線を、特に上からの視線を遮るようなアイテムを入れて落ち着かせる
といったところがカギとなるようです。そこで、後者の「上からの視線を遮るようなアイテム」に着目しながら、あと2,3の事例を見て本稿を終わりにしたいと思います。
半分に割って伏せた植木鉢のシェルター
爬虫類両生類飼育におけるシェルターの古典、半分に割って伏せた植木鉢を使っていたのは、東山動物園のナゴヤダルマガエル水槽。
ケージ内には、観葉植物なども植わっていましたが、ナゴヤダルマガエルは居場所として植木鉢のシェルターの中を選んでいます。
このシェルターをよく見ると、植木鉢の底の部分も欠けさせていて、中に閉じ込めないような、後ろからも逃げられるようなつくりになっていました。
流木の陰で視線が遮られているケース
同じく観葉植物をふんだんに使いつつ、カエルはより気づかれにくい流木の陰に隠れていたケースがこちら、足立区生物園のトウキョウダルマガエル水槽です。
左奥の平らな岩で出来た陸地部分と、ソイルが敷かれた水場の境に、流木がセッティングされています。この流木が、中に隠れる空間を提供できるような上手い形をしていて・・・
このようにカエルが隠れていました。
葉の広い観葉植物が視線を遮っているケース
最後が、こちらの飼育環境。東山動物園のトノサマガエルの飼育ケージです。
市販のシェルターも用意されていますが、トノサマガエルがいたのは・・・
葉っぱの陰です。
この観葉植物、実はあわしまマリンパークカエル館でも使われていた種類です。調べてみると、ディフェンバキアという種類のようです。葉っぱの面積が広く、四方に水平に広がってくれるという、視線を遮るうえで理想的な形をしています。
トノサマガエル・ダルマガエルは、日本在来の水辺のカエルらしいカエル。日本産種だけに、温湿度や水質などにはそれほど気を使う必要はありませんし、大きさも適度なサイズです。唯一のネックともいえる、驚いて飛び跳ねてしまう問題を上手く解決できれば、飼いやすいカエルとなるかもしれません。