対馬・大陸とのつながりを感じさせるツシマスベトカゲ

長崎県の対馬に住む、ツシマスベトカゲ。日本の爬虫類両生類を幅広くカバーしている「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」に、珍しく写真が載っていない種類です。幸いにも、対馬にてその姿を目撃、写真に収めることができましたのでご紹介します。

烏帽子岳展望所からみた対馬

対馬は、淡路島より広い面積を持つ大きな離島。細長い地形をもち、博多から130キロ、釜山から50キロの位置にあります。地理的な要因から、古来より大陸(韓国)の影響を常に受け続けてきた歴史を持ち、実際に訪ねてみると、現在でも身をもってそれを実感することが出来ます。

対馬に来る観光客は、釜山から船でたった40分という距離的理由もあり、日本人より韓国人の方が圧倒的に多いようです。大きなホテルは韓国資本によって運営され、市街には韓国人向けに日本の化粧品・日用品などを売る免税店が店を構えます。

厳原の免税店

韓国側の端には韓国展望所があり、天気の良い日は釜山の街並みがうっすらと見えます。展望所のすぐ前には、国境を守る自衛隊の基地が。ここでは、携帯の電波も韓国のものが入ります。

韓国展望所

生態系も、大陸からの影響を受けています。有名なツシマヤマネコは、大陸のベンガルヤマネコの亜種。近年も、ツマアカスズメバチという大陸のスズメバチが外来種として流入し、大きな影響が生じています。

対馬は、もともとニホンミツバチの採蜜が盛んで、蜂蜜の名産地でした。専門の養蜂業者がいるというよりは、一般家庭において、蜂洞と呼ばれる中をくり抜いた木の株を置いて、蜂を呼び込んで蜜をとるという規模感で営まれてきました。

蜂胴 蜂が営巣する木の洞穴を模した形をしている

設置された蜂洞のようす

蜂洞はあちこちに置かれ、形も様々

しかし、ツマアカスズメバチの侵入によってニホンミツバチが逃げてしまい、ハチミツがほとんど採れなくなってしまったとのこと。

もともとスズメバチは、ニホンミツバチの蜜や幼虫を狙って巣を襲います。これに対してミツバチは、集団でスズメバチを取り囲んで、自らの体温でもってスズメバチを蒸し殺すという方法で対抗していました。ただ、この方法が通用するのは在来のスズメバチだけ。ツマアカスズメバチにはこれが効かず、ニホンミツバチが大打撃を受けているそうです。

さて、そんな対馬で、幸運にも日本では対馬にしかいないツシマスベトカゲを見かけることが出来ました。目撃現場は、山の中の陽当たりがある石垣付近。

対馬の山の中の石塁跡

対馬は、もともと全体的に山がちな地形です。その山の中に、白村江の戦いのあと、韓国からの攻撃に備えて石塁が築かれました。この石塁は、国の特別史跡に指定されている貴重なものですが、長年の経過によりかなりの部分が崩れかかった状態です。

対馬の山の中の石塁跡

山の中の、崩れかかった石積み。石垣付近は木が切り開かれており、陽当たりもあります。まさに、ヘビやトカゲにとっては理想的な環境。そんな場所にいたところを撮ったのが下の一枚。

ツシマスベトカゲ

現場でみた時は、大きさが小さいこと、すぐに隠れてしまったことから、同じように金属光沢をもつ普通のニホントカゲと同じような印象しか残りませんでした。ただ、後から写真を見ると、鱗がきめ細やかで、真鍮のような鈍い光沢を発していて、ニホントカゲとは異なる外見ですね。背中と胴の側面の間に、黒っぽい線が入っているのも特徴的です。

参考のため、「ニューワイド学研の図鑑 爬虫類・両生類」における記載を抜粋しておきます。

・平地から山地にかけて対馬のほぼ全域に分布し、石の下やたおれた木の下、落ち葉の中などで見ることができます。昼行性で小さな昆虫を食べます。

近年まで対馬固有種と考えられてきたツシマスベトカゲ。最近、朝鮮半島にも分布していることがわかってきたようです。爬虫類として、大陸との中継地点であり続ける対馬を象徴する存在といえますね。

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