トウキョウサンショウウオ・エゾサンショウウオの飼育方法

皆さんは、周りにサンショウウオを飼っている人がいますか?

星野一三雄著「両生類・爬虫類のふしぎ」によれば、日本はサンショウウオ天国だそうです。狭い国土の割に、18種類と世界でもめずらしいくらいに多くの種類の小型サンショウウオが生息しているとのこと。

円山動物園のエゾサンショウウオ
円山動物園のエゾサンショウウオ

といっても、普通の日本人が日常生活上、サンショウウオを目にする機会は多くありません。生息域が人目に触れにくい場所で、外見も地味だからです。

サンショウウオは、たとえ爬虫類両生類好きであっても、どこか縁遠く謎に包まれた存在。

どんな人が飼っているのか、飼育者も同じく謎に包まれていましたが、とある施設でたまたまお話を聞く機会がありました。

以下、伺ったお話含め、小型サンショウウオのなかでも陸棲傾向が強いトウキョウサンショウウオ、エゾサンショウウオの飼育についてご紹介します。

飼育参考書にみるトウキョウサンショウウオの飼育方法

日本産小型サンショウウオ類は、前述のとおり見かける機会が少ないうえ、外見が地味。おまけに飼育難易度も高いため、飼育の情報は多くありません。

数少ない貴重な情報として、まずは信頼できる参考書の記載を引用します。

東京都内某施設のトウキョウサンショウウオ

千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」のトウキョウサンショウウオの項には、次のように書かれていました。

湿ったテラリウムで飼い、床には落葉と土を混ぜて敷く。シェルターを設ける。気温は室温にまかせてよいが、25℃以上にしないのが望ましい。餌はミミズ・ナメクジ・ヒメフナムシ・ワラジムシ等の土壌動物、小さなコオロギ・クモ・ミールワーム等。細い針金の先に肉片を付けて目前に持って行って食べるようにしつけられうる。春先に山際の湧水池等にバナナ状の卵嚢を産む。幼生は水棲で赤虫・イトミミズ等を食べるが、特にサイズによりばらつきが生じたりすると非常によく共食いする。通常は年内に変態し、幼体は成体と同様に飼うが、より小さな餌が必要でかなりの手間がかかる。数年で成熟する。開発のため急激に減少しており安易な採集・飼育はすすめられない。

なお、トウキョウサンショウウオは、特定第2種国内希少野生動植物種として売買や販売目的の捕獲が禁じられています。研究目的や趣味での採集・譲渡は規制の対象外です。

参考:環境省HP「特定第二種制度」「特定第二種国内希少野生動植物種の選定について

某施設でのトウキョウサンショウウオ飼育環境

続いて、東京都内にある某施設でのトウキョウサンショウウオ飼育環境をご紹介します。某施設としているのは、小さな施設であるため、来訪者が殺到するとご迷惑をかける可能性があるためです。

東京都内某施設のトウキョウサンショウウオ飼育ケージ

ケージは、45センチ水槽を使用。上にはぴったりサイズの目の細かい金網がかぶせられています。

シェルターは、流木、石、炭(備長炭)がいくつか。

床材は、観賞魚用と思われるソイル系のもので、かなり厚めに敷かれていました。傾斜がつけられており、低いところは浸れるくらいの水場になっています。水場の面積は全体の5分の1もなく、深さも最深部で数センチもありませんでした。

トウキョウサンショウウオのレイアウト

種類によって異なるサンショウウオの水場依存度

日本産小型サンショウウオ類は、種類によって水場への依存度合が異なります。

サンショウウオと言えば、姿をあらわすのが産卵時であり、産卵を水場でおこなうこと、サンショウウオ自体に渓流性種のイメージが強いことから、飼育環境は水場メインのものを思い浮かべがちです。一方、「陸棲の有尾類は落ち葉の下や浅い地中で生活する、事実上の大型土壌動物」(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」)という面もあります。

トウキョウサンショウウオの水場依存度はどれくらいなのでしょうか。国内のサンショウウオ20種類弱について、種類別にそれぞれ1ページずつの解説スペースをもつ名著、大谷勉著「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」では、次のように触れられていました。

淡い色のトウキョウサンショウウオ

トウキョウサンショウウオの生態

  • 低地から標高300mまでの丘陵地に生息する。森林内の沢や林床、林縁部の池・沼周囲の湿潤な環境に分散している。日中は林床やその周囲のモグラ、ネズミなどの穴、木根跡の穴、落ち葉の下、倒木の下、苔の下などに潜む。夜間に地表を徘徊し、採食する。冬眠前には雨天時やその後など、気温が低下し、地表が濡れている時などに活動する個体もいる。冬眠場所は堆積した落ち葉下や倒木の下など。

トウキョウサンショウウオの餌

  • ミミズやダンゴムシ、ワラジムシなどの小型の土壌動物や、徘徊性のクモ類など。

(引用おわり)

生態からも餌の種類からも、トウキョウサンショウウオ成体の通常の居場所は、水場でなく土壌であることがわかります。

東京都内某施設のレイアウトも土壌部分メインで構成されており、使われていた床材は次のようなソイル系のもの。

このようなソイル系床材を厚めに敷いたうえで、水を注ぎ入れることにより適度に湿った土壌をつくりだしていました。

トウキョウサンショウウオは、夜間にひっそり動くような小型生物。小さくて代謝が低いため、フンもそうそう出ません。ある程度の分解能力を持つ床材を使用し、必要に応じて取り換えていくようなメンテナンスが向いているのではないでしょうか。

床材はソイル、シェルターには炭などを使用

なお、餌については、近所で採集出来て、簡単にふやせる極小サイズの餌・ワラジムシなど、当サイトでもいくつか解説していますので、そちらをご覧ください。

毎年の繁殖実績あり、札幌市円山動物園のエゾサンショウウオ飼育環境

トウキョウサンショウウオに続いて、エゾサンショウウオの飼育環境をみてみます。

まずは、展示水槽内で毎年のように産卵するということから、その飼育環境の良さがわかる円山動物園爬虫類両生類館の飼育ケージ。

エゾサンショウウオの飼育スペース

こちらは、陸場と水場が造り付けの擬岩によって分けられたレイアウトでした。サンショウウオ類は種類によって水場依存度が違いますが、繁殖は水場で行ない、幼生は水中で育つ種類がほとんど。繁殖も含めた生活環を完結させるためには、このような広い水場が必要です。

陸場はすこし湿り気を帯びていますが、構造上水場と分けられているので濡れている感じではありません。床材は、大磯くらいの大きさの、表面がつるつるしていない白っぽい砂利。隠れ家にもなるシダや植物が植えられています。水場の淵には、ウイローモスも見えました。

円山動物園の2頭のエゾサンショウウオ
左側のシダの根元にも一頭いる

なお、前述の「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」のエゾサンショウウオのページには、生態・餌について次のように書かれていました。

エゾサンショウウオの生態

  • 低地から標高2000mを越える高地まで広く生息する。主な生息地は森林内や林縁部に池や沼、緩やかな流水部がある森林、湿地に多い。日中は落ち葉下や倒木の下、穴の中に潜み、夜間に林床を徘徊する。冬眠は森林内の穴や堆積した落ち葉下などで行う。

エゾサンショウウオの餌

  • ミミズやゴミムシ、徘徊性の小型クモ類などを捕食する。幼生は小型の水棲の無脊椎動物やカエルの幼生などを食べ、頭部の大型化した個体は同種の幼生でも捕食する。

北海道某町施設のエゾサンショウウオ飼育水槽

最後に、北海道某町施設のエゾサンショウウオ飼育環境をご紹介します。某町施設としたのは、トウキョウサンショウウオの施設と同じ理由からです。

北海道某町施設のエゾサンショウウオ飼育ケージ

ケージは、60センチ水槽。上には、木枠でできた網の蓋がピッタリはめられていて、重しの石で押さえられています。

ケージ内は、湿らせた水苔を敷きつめた部分が半分、観賞魚用の砂利を敷いた部分が半分。水苔は水を含んで濡れている状態ですが、砂利の方はやや乾き目の状態です。

ミズゴケの上には平たい石が三つ置かれ、これに重なるように大きな平たい貝殻が三枚配されています。貝殻の下は物陰となり、よいシェルターとなっている様子。

一方、砂利の部分は高低差がつけられているほか、部分的に生ミズゴケもしくは天然の苔と思われるコケが置かれています。こちらにも、陶製と思われるシェルターが2つ。植物も3種類が1株ずつ植わっていて、きちんと育っています。

エゾサンショウウオの水槽レイアウト

ここは小さい施設だったため、幸運にも実際に世話をされている方から直接、貴重なお話を聞くことができました。

・そのままにしておくと干上がってしまう水たまりから卵を持ってきて飼育。幼生はウーパールーパーみたいな形。上陸する時に食性が変わるので(元いた場所に)戻して、ここで飼っているのはその残り。

・全部で6匹。慣れていて、人がくると餌がもらえると思ってでてくる(実際に、隠れないでちょろちょろ出てきていました)。

・餌は、乾燥イトミミズを水で戻したものをピンセットで与えている。

・石の上に集まるときなど、ケージの中で移動する(ケージ内で好きな場所を選んで自ら動く)。自然の苔も入れてみたが、ミズゴケを好む。水場はつくったこともあるが、陸にいる。自然では水の中にいる。

・温度管理が難しい。家でも飼っているが、凍らせたペットボトルを水槽の上に置いている。凍らせたペットボトルを水槽の中に入れると体調を崩す。

石の下から顔を出すエゾサンショウウオ

印象的だったのは、温度管理の話。訪問時は8月の盛夏の一番暑いときでしたが、道内でも寒い場所だったので東京在住者からすればかなり涼しい印象。宿泊場所も含め、冷房設備などはないような地域です。それでも、暑さ対策が必要といいます。

サンショウウオ飼育で必須な高温対策

冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」の日本産爬虫類両生類飼育の心がまえとポイントの項には、次のような言葉があります。

  • 国産爬虫両生類の中で、最も飼育難易度が高いのがサンショウウオの仲間である。正直、「どうしても」という人以外には、飼育をおすすめしない。高山や渓流に生息するものが多く、まず一般家庭での夏はエアコンなしでは乗り切れない。

これについては、千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」も、大谷勉著「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」も同じ意見です。

爬虫両生類飼育図鑑は、トウキョウサンショウウオについて「25℃以上にしないのが望ましい」、

日本の爬虫類・両生類飼育図鑑は、トウキョウサンショウウオ・エゾサンショウウオともに飼育のポイントを「飼育温度(24℃以下)、特に夏場の蒸れに注意」

とし、両書とも冷房や冷蔵庫使用、保冷剤使用等のアイデアを記載しています。

飼育難易度が高い理由をみていくと、温度管理につきあたるサンショウウオ飼育。逆に言えば、ここをクリアすれば大きな前進です。

貝殻のシェルターから姿をあらわした北海道某町施設のエゾサンショウウオ

では、夏場の高温対策として、どのような手段を使えばよいのでしょうか。

冷蔵庫は、生体の季節感覚や日照感覚(中はずっと暗い)に与える影響が大きそうです。保冷材も、温度変化のコントロール精度や持続時間、取り替え頻度を考えると、良いところばかりではありません。

現実的には、乾燥対策をした上で、常時エアコンを動かしている部屋で飼う、ということになるのではないでしょうか。

最近は、エアコンの省エネ化が進み、少ない電気で運用することができます。また、エアコンはつけてから設定温度にするまでに一番電力を使い、つけっぱなしで温度をキープする場合はそれほど電気を使いません。

最高気温が24℃あたりを上回りそうになった時に、サンショウウオ水槽がある部屋を常時冷房とし、安定的に下回る季節までこれを続ける、というのが一つの現実解である気がします。

また、最近は高価だったワインセラーが、随分と安く手に入るようになりました。ワインセラーは中の様子が見えますし、一定の範囲で温度設定が可能です。上手く利用すれば、強力な武器になります。

丁寧に飼って飼育技術・繁殖技術の確立を

サンショウウオは、都市化に弱い生き物です。生息域の減少は、個体数減少の大きな原因。サンショウウオの命をつないでいくためには、生息環境の確保が重要です。

といっても、これはなかなか難しい話。ならば、丁寧に飼って繁殖方法の確立に取り組むというやり方もあります。参考にしたいのは、ウーパールーパーの例。

ウーパールーパーは、実は野生では絶滅寸前の存在です。原産地のメキシコの湖で都市化による埋め立てが進み、野生個体は風前の灯火。現在は残された運河などに、100匹ほどが生息するのみとか。そのため、サイテスⅠ指定で厳重に保護されています。

その一方で、そうなる前に飼育された個体で繁殖技術が確立されたため、ご存じの通り養殖個体が幅広く飼育されています。

北海道某町施設のエゾサンショウウオは、人がくると出てくる

サンショウウオは、地味な上に人目に触れにくい場所に生息するため、その生態はまだまだ謎に包まれています。飼育難易度が高いと言われるのも、当然かもしれません。ただ、ポイントを押さえて丁寧に飼えば長生きする種類。飼う方には、じっくり飼い込んで飼育技術や繁殖技術を積み上げてほしいと思います。