クサガメは、当サイト管理人が自信をもっておすすめする、初心者でも飼いやすい爬虫類。
- 市販の人工飼料で飼育可能
- 自然に任せた温湿度管理が可能
- 入れ物+αの飼育設備で飼育可能
- 適度な大きさ
- 臆病でなく、人慣れする
- 長生き
といった特徴があり、管理人自身、小学生時代に500円玉サイズで購入したクサガメを、大学生の時に逃げられてしまうまで、毎年冬眠させつつずっと飼育していました。
生き物を飼いたい人に、非常におすすめのカメですのでご紹介します。
目次
飼育書におけるクサガメの記載
クサガメは、爬虫類飼育において非常にポピュラーな種類。どの飼育書にも載っていますが、飼育が容易であるからか多くの本であまり細かいことには触れられていません。そんな中、一定の記載があったのが、大谷勉著「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」(P142)。いわく、
- 生態:低地性のカメで、河川の下・中流域で岸に草類が繁茂した、比較的緩やかな流域やよどみ、池沼に生息するが、人為的に放たれた人工池にも多く、場所によっては繁殖もしている。主に昼行性で、晴天時にはよく日光浴を繰り返すが、夏季の高温期には朝夕活発に行動する。冬季は池沼などの深い水底や河川の水際の横穴などに潜り冬眠する。
- 餌:雑食性で水生植物や水辺の植物、果実、水棲昆虫・甲殻類・貝類・陸棲動物の屍骸など。
- 飼育難易度:容易だが、仔ガメは水質悪化で、口の周りや甲羅にカビが発生しやすい。
同書では、P156-156の採集に関する箇所でも、「クサガメは低地の河川や池、沼、河川の岸辺が草で覆われ、部分的に日光浴のできる空間がある場所」などに多く生息するとしています。
プロによるクサガメの室内飼育例
続いて、爬虫類の飼育施設での飼育例をみてみましょう。クサガメを飼育する施設では、自然の生息環境を再現したレイアウトを採用している場所も多いのですが、ここでは個人での飼育に応用しやすいケースを紹介します。
足立区生物園のクサガメ飼育ケージ
足立区生物園のクサガメ飼育ケージはこちら。
右側の成体カメのケージは、90センチ水槽。中には、カメの甲羅の高さの2倍程度のきれいな水が入れられています。特にろ過設備などはありません。
クサガメは、水中でエサを食べます。餌の食べ残し、また、フンで水はかなり汚れます。水槽の水は、食事の場であり、生活空間そのものであるとともに、飲み水でもあります。エサや排泄は毎日のように繰り返されるので、その頻度・回数を考えると、水槽の水はなるべく簡単に水替えできるような形にしておき、汚れたらすぐに交換することが望ましいと言えます。すなわち、水槽内からは砂利などの装飾要素を排し、なるべく水替えのしやすいシンプルな形とする方がメンテナンス面からおすすめ。また、クサガメが水を汚すレベルと、現実的に確保できる水槽の水量のバランスを考えると、濾過で水質を保つのは非現実的です。
ケージの上部には、蛍光灯(恐らく紫外線灯)のほか、陸場の上に熱源用ライトがつけられています。
陸場はレンガを重ねた上に、陶器の板を置く形です。シンプルで掃除がしやすく、力のあるクサガメでも動かしにくい陸場となっています。
クサガメは、体温をコントロールしたり、カルシウム生成に必要な紫外線を吸収したり、体を乾燥させるために、陸に上がって日光浴をします。飼育下でも、体が完全に乾かせるような陸場を用意し、上に熱源用ライトをつけることは必須。ときどき外で日光浴をさせることが難しければ、カルシウム生成の観点から紫外線(UBV)灯も必要です。また、陸場は皮膚病やカビの発生を防ぐ観点から、体を完全に乾かせる、水に浸かっていない陸場とする必要があります。
足立区生物園では、金銭亀サイズの亜成体はプラケースで飼育されていました。成体の水槽とおなじく、
- 甲羅の2倍くらいの深さのきれいな水
- 砂利やろ過設備がない水替えしやすいケージ
- 完全に体を乾かせる陸場
- 陸場の上にライト
といった構成になっていました。
クサガメの屋内飼育に必要な、人工的に日光浴が出来る機能をもったライトは、いろいろあります。当サイトでも、どう違う?爬虫類用ライトの種類と役割【メタハラ・バスキング・UVB】で紹介していますが、熱源(バスキング)機能とUVB照射機能を区別して意識してください。
(熱源・UVA照射機能・・・体温調整等)
(UVB照射機能・・・カルシウム生成等)
草津熱帯圏のクサガメ飼育レイアウト
つづいて、爬虫類飼育の老舗であり名門でもある草津熱帯圏のクサガメ飼育レイアウトを見てみましょう。
基本的要素は、足立区生物園と同じです。やや、草津熱帯圏の方が水の深さが深いですが、砂利などの装飾要素やろ過設備がない点は同じ。完全に体が乾かせるようなシンプルな陸場と、陸場の上にライトがある点も同じ。
なお、水深は、最低でもカメの甲羅が全部浸かって、「歩ける」でなく「泳げる」レベルを確保してください。運動面からもそうですが、カメの全身が浸かる深さがないと、甲羅のてっぺんの部分が常に乾燥した状態になり、甲羅がいびつな状態になってしまいます。
草津熱帯圏には、草津熱帯圏で生まれたクサガメの子ガメも展示されていました。レイアウトの構成は、ご覧の通り同じでした。
理想的なクサガメ屋外飼育例、日本平動物園
クサガメは、日本の自然のなかで生きるカメ。当然、屋外での無加温飼育が可能ですし、その方が好ましくもあります。屋外であれば、日光浴も自然に出来て、照明設備を用意する必要もありません。
スペース等の問題から誰もが実現可能なものではありませんが、個人宅の庭などを利用して屋外飼育環境を用意する場合の、お手本ともいえる施設が静岡県・日本平動物園にありました。ぜひ現場に行って実物を見てほしいのですが、そうもいかない方のために、ここでご紹介します。
陸地と水場を備え、水深にもメリハリ
クサガメの飼育設備は、泳げる広さ・深さの水場と、体を完全に乾かすことのできる陸場を備えていることが基本。日本平動物園では、この基本を押さえたうえで、水場には水深が深い部分と浅い部分を設け、陸場は分散させて複数設置しています。
日が当たるエリア・当たらないエリアがある
日本平動物園のクサガメ屋外飼育池は、爬虫類館の建物のすぐ横にあります。建物の陰になることで、全体が直射日光にさらされることがないよう配慮されているものと思われます。飼育エリア全体が直射日光にあたると、高温時に逃げ場がなくなります。クサガメは丈夫な種ですが、夏場に水温が40度近くなるような場合、命にかかわってきます。カメの屋外飼育施設は、直射日光が当たるエリアと当たらないエリアが両方あり、かつ日が当たる部分に日光浴が出来る陸場が、池には一定の日陰部分ができるよう設計されている必要があります。
逃亡防止・外敵侵入防止設備の設置
クサガメに限らず、生き物は飼育スペースから逃亡を図ります。屋内で逃げられても家の中を探せば見つかりますが、屋外ではそうもいきません。カラスなどの外敵によるいたずらのリスクも、外では屋内に比べて圧倒的に高くなります。
目の届きにくい屋外で、逃亡・外敵侵入を防ぐには一定の設備が必要になります。日本平動物園の屋外飼育池は、生体を展示するという観点から、単に金網で全面を囲うようなやり方でなく、鑑賞に配慮した逃亡防止・外敵侵入防止設備を備えていました。
写真の通り、陸場の角の部分の上に粗い金網を被せ、日光浴をするカメたちが重なり合っても逃亡できないようにしています。また、飼育スペース全体の上部に透明なテグスを張り、大型の外敵の侵入を防ぐ工夫をしていました。
メンテナンスしやすい給排水設備
前述のとおりクサガメの飼育では、エサの食べ残しやフンなどにより、水がすぐに汚れてしまいます。頻繁な水替えが唯一の現実的対応策ですが、日本平動物園の屋外飼育池にはこれを支えるシンプルな構造と給排水設備が備わっていました。
クサガメのエサ
さて、ここまではクサガメの飼育ケージについてみてきました。ケージ(すみか)と対をなすもう一つの飼育の重要項目・餌はどうすればよいのでしょうか。
結論から言うと、人工飼料が第一選択肢として力強い味方となってくれます。
クサガメは、カエルやトカゲのように動くエサ・生き餌を要求しません。もともと動きが遅い彼らは、自然界でも魚や水生生物の死骸・水草等の植物など、動かないエサを多く摂取していると考えられます。エサが動かないものでもよいため、自然での食性と栄養バランスを考慮した人工飼料が開発され、実績を積み上げています。
私自身、飼育していたクサガメの子ガメには人工飼料をメインで与え、その他は適宜入手したものを与えていましたが、甲羅のいびつな成長などの異常もなく、良く成長したと実感しています。なお、「食いつき」は動物性の非人工飼料が一番よく、たとえば同時期に飼育していた川魚・金魚の死骸やオタマジャクシなどを与えると、駆け寄ってきて食べていたのを覚えています。
クサガメの餌については、爬虫類飼育の基本書等でも「何でもよく食べる」「動物食寄りの雑食性」くらいしか触れられていない場合も多いのですが、爬虫類のエサについての決定版・安川雄一郎編著「爬虫類 カメ・ヘビ・トカゲ・ワニ 長く健康に生きる餌やりガイド」に重要な記述がありました。
この本自体非常に情報量の多い本ですが、その一部、「代表的な水棲,半水棲ガメの食性の違い」(P43)クサガメの項には、
- 食性・・・雑食(昆虫、魚、甲殻類、水棲巻貝、水草、果実等)
- 備考・・・主に水中で摂餌。陸上で食物を吞み込めない。
「雑食の水棲種・半水棲種(主な種)の餌:量と給餌頻度の目安」(P79)のクサガメ(背甲長5cm)の項には、
- 餌の種類・・・配合飼料、甲殻類、昆虫、貝類
- 1回の餌の量・・・2~4g
- 給餌頻度・・・毎日
同(背甲長15cm)の項には、
- 餌の種類・・・配合飼料、甲殻類、昆虫、貝類、野菜、果実
- 1回の餌の量・・・50~80g
- 給餌頻度・・・週2~3回
- 備考・・・配合飼料は全体の4割未満
と書かれていました。成長に伴い、人工飼料のウエイトを落として植物性の餌をとりいれていくと良いのかもしれません。
クサガメの冬眠
最後に、クサガメの冬眠について触れておきます。冬眠については、飼育書によってはリスクを考えて薦めないとしている本も多いですが、繁殖には四季を感じることが必要とされていますし、経験するのが自然でもあります。
冬眠させる場合は、初秋ごろから屋外飼育を
冬眠させるかさせないかは、飼育者の判断ですが、させる場合、初秋ごろから屋外で無加温飼育し、自然の温度・日照変化のなかでリズムをつくっていくのがスムーズです。屋内で温度管理されていたものを、ある時点で外に出して冬眠、とするとうまくいきません。
千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P56では、クサガメの冬眠について、
- 11~3月くらいは冬眠するが、この期間は動きを観察していて個別に判断すればよい。幼体は冬も保温飼育するのが安全だが、その際の適温は気温22~28℃、水温22~28℃。
とあります。そのとおり、毎日観察していると、動きはあるものの、餌食いが悪くなってくるタイミングが訪れます。餌を食べなくなってしばらくたち、動きも鈍くなってじっとしていることが多くなれば、冬眠の季節です。これは、自然の温度・日照変化のなかで訪れるものですので、この点を考えると前もって屋外無加温飼育をしておく必要があるわけです。
水中で冬眠するか、土や落ち葉の中で冬眠するか
カメの冬眠は、水中でするケース・土や落ち葉の中で冬眠するケースの両方があります。
「水中で冬眠させる場合は、カメの体が凍ってしまわないように、水深は30cm以上あったほうがよい」(小家山仁監修「カメとイグアナ・ヘビ・トカゲ」P61)とされ、普段の飼育スペースに、深くて水温が日照等で大きく変化しない位の大容量の水場があれば、クサガメが自らスムーズに冬眠に入れる水中での冬眠が選択肢に入ってきます。
管理人は、毎年土の中で冬眠させていました。蓋ができる大きなバケツのなかに、水でふくらむ培養土を深く入れ、クサガメがエサを食べなくなってしばらくたち、動きもじっとしているようになった頃、土の上に置きます。土は適度に湿らせ、ある程度フカフカなので、カメは自分で潜っていきます。バケツは屋外の日が当たらず温度変化が少なそうな場所に設置、ときどき乾燥していないかチェックするといった形です。
冬眠については、小家山仁監修「カメとイグアナ・ヘビ・トカゲ」P60-61に詳細な記述がありますので、ご一読をおすすめします。
飼いやすい爬虫類・両生類として名前が挙がる生き物は、いくつかあります。クサガメは、その中でも実際に長期飼育している例をよく見かけるカメ。きちんと飼えば、よい相棒になってくれます。