「カメレオン」といえば、だれもが知るところの有名な生き物。他に類をみない独特のかたちや、体色を変化させるユニークな特徴は、爬虫類好きでなくとも思い浮かべることができます。
ただ、名前と姿は知っていても、飼育対象として見れるかは別。実際、カメレオンの飼育は易しいものでありません。
しかし、近年では、今回ご紹介するエボシカメレオンのCBのように比較的丈夫な種類が流通するようになってきました。適切な環境を用意すれば、きちんと飼いこめて、繁殖まで狙えるところまで来ています。
今回は、その「適切な環境」を探るべく、詳しい飼育書の記載をみたうえで、国内トップレベルの飼育技術を誇る施設での飼育環境を紹介していきます。
目次
文献にみるエボシカメレオンの飼育方法
冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」は、表紙の写真にカメレオンの写真を採用しているだけあって、カメレオンに関する記載がとても充実しています。
エボシカメレオンの飼育例について見開きで2ページ、各種カメレオンの紹介に4ページ、カメレオン一般の飼い方について文章のみで約2ページと、割かれている紙幅はかなりのもの。そのなかから、ごく一部を抜粋・引用すると・・・
エサ
- メインはなるべくコオロギにし、オヤツ程度にジャイミル(サイト注:ジャイアントミールワーム)や果物、葉野菜を与える。
水
- 多くの種で、毎日の霧吹きは欠かせない。
- 水容器を置いただけでは、樹上性のトカゲ以上に気づかない。必ずドリップ式か、エアレーション式にしたい。
ケージ/レイアウト
- 背の高い余裕のあるケージを用いたい。また、乾燥を好むエボシには通気性の良いサイドメッシュのケージが適しており、そこも活動の場にできる。
- ケージ内には鉢植えの観葉植物を入れておくと、それが維持できていればカメレオンにとっても良い環境であるという指標になる。もちろん彼らの生活の場にもなる。また、完全樹上性である彼らには登れる枝が必需品だ。
ケージの置き場所
- 彼らは見下ろされるのを嫌う。彼ら自身が見下ろしていないと安心できない。よってケージは、目線よりも高いところに置きたい。
- ケージの置き場で重要なことが、もうひとつある。それは、そばに他の爬虫類、特にヘビを置かないことだ。特にヘビ、もしくはそれに近い容姿のトカゲ、鳥を非常に恐れる。そういった動物の存在自体がストレスになるので、注意したい。
温度
- 遠赤外線ヒーターをケージ側面に貼るくらいで問題ない場合が多い。というのも、常に高温にしておく必要がある種はおらず、昼夜の温度差を好むものが多いからである。よって保温のメインはバスキングランプということになろう。
- 多くの種において、「高温に弱い」という部分がネックになる。ベストな気温が24℃といったら、夏場はエアコンをフル活動させねばならない。
紫外線
- 紫外線は必要だが、ほとんどの種で明るすぎる環境を嫌う。よって紫外線の供給は蛍光灯タイプで行ない、必ず日陰を設けておく。
(引用ここまで)
「爬虫両生類の上手な飼い方」 は、情報量が多く各品種のカラー写真もきれいな本。カメレオン飼育を考えている方はぜひ参照してみてください。
続いて、一流の爬虫類飼育施設での実際の飼育状況を参照します。
3つもある!東山動物園のエボシカメレオン飼育ケージ
国内有数の爬虫類・両生類展示数を誇り、それを支える施設面・設備面も充実している東山動物園。ここでは、3匹のエボシカメレオンが1匹ずつ、3つの飼育ケージで飼育されていました。
樹上性カメレオンに必須・木の枝組み
3つのケージすべてが、観葉植物を中に配し、複数の木の枝を組み合わせてつくったレイアウト。エボシカメレオンは完全樹上性なので、枝組みの質・規模は非常に重要となります。
まず注目すべきは、木の枝の細さ。エボシカメレオンの手(冒頭の写真を参照してください)をみるとわかるのですが、あまり太い枝は、カメレオンには適しません。東山動物園でも、人間の腕くらいの太さの枝はほとんど使わず、指の太さくらい、もしくは鉛筆の太さくらいの枝をメインとしたレイアウトを組んでいました。下の写真のように、相当細い小枝にとまる場面もよく見られました。
木の枝について、もうひとつ気をつけるべきなのは、その位置。前項で紹介した 「爬虫両生類の上手な飼い方」 では、 ケージの蓋にエボシ(トサカ)を擦り付けてケガをするケースが多いため、ケージ上部と木の枝を充分離すよう注意がありました。
完全樹上性のカメレオンにとって、木の枝はケージ内の通り道そのもの。後述するホットスポットや水飲みスポットにも、枝の道を通っていくことになります。枝組みの規模・充実度が行動範囲を決めるため、しっかりしたものをつくってやる必要があります。
エボシカメレオンの温度管理とバスキングライト
続いて確認したいのが、温度管理の様子。気を付けるべき点は、「昼夜の温度差」と「高温対策」です。
「昼夜の温度差」は、常時保温、すなわち冬季・夜間における最低ラインのキープをエアコンやプレートヒーターで行ない、日中の温度をバスキングライトであげてやることでつくりだせます。
東山動物園では、カメレオンが強い光を嫌うこともあってか、光が見えにくい赤外線タイプのライトでバスキングを実施。
バスキングライトは、エボシ(トサカ)とライトの接触事故を防ぐため、
- ケージ外から照射する
- カメレオンの可動域から充分離して設置する
- 接触防止のライトカバーをつける
といった点に注意して使います。
「爬虫両生類の上手な飼い方」によれば、バスキングライトが小さすぎたり、全体の保温が弱すぎたりする場合に、カメレオンがライトに接近しすぎて事故が起こりやすいとのこと。ライトの大きさは、直径がカメレオンの胴体くらい以上のものが望ましいそうです。
このページでは、東山動物園のカメレオンケージを3つ紹介しています。どのケージにもバスキングライトが設置されていますので、参考にしてみてください。また、下に鳥羽水族館でのバスキングライトとスパイラル式蛍光灯の写真も載せておきます。枝と取付場所の距離感など、余裕があればこんな感じでつくりたいものです。
温度管理のもうひとつのポイント「高温対策」は、エアコンの稼働につきます。「爬虫両生類の上手な飼い方」によれば、カメレオンは多くの種で、暑すぎるときは体色が白や黄色っぽくなり、寒いときは色が濃くなるそうです。生体をよく観察して対応することが重要です。
カメレオンの水容器は、ドリップ式
カメレオンへの水供給で注意すべきは、水に動きをつくるということ。カメレオンは、動いていない水を認識できません。水容器をケージに入れただけだと、水分がとれずに弱ってしまいます。
エボシカメレオンに気づいてもらえる水供給の方法として東山動物園が採用していたのは、ドリップ式。細いチューブをケージ上部に配し、先端から水をポタポタたらします。水滴は、付近の木の枝や観葉植物の葉にあたり、付近を濡らしています。
水滴が落下するあたりの底面は、大磯砂を濡らした状態にしている場所もあれば、受け皿を置いているスポットもありました。ドリップ式では水はポタポタとしか垂れませんが、ずっと落下し続けているため、一日ではかなりの量の水がケージの底面にたまることになります。底面が水浸しになると衛生上問題があるため、排水の方法は考えておく必要があります。
装置がやや大掛かりになりますが、ポタポタでなく流水を用意してやることも一案です。大型のケージで飼育していた鳥羽水族館では、この方式を採用していました。厳寒地では、冬季に水道管の凍結を防ぐため、水をチョロチョロ出しっぱなしにすることがあります。排水さえ確保できれば、この方式もありです。
なお、水に動きをつくるもう一つの方法として、ある程度の大きさの水容器にエアレーションをかけて水面に動きをつくる「エアレーション式」があります。この方法は、つぎの草津熱帯圏の項でご紹介します。
鳥かごをつかった草津熱帯圏のエボシカメレオン飼育環境
高いクオリティの飼育環境を誇る爬虫類飼育の老舗、草津熱帯圏。ここでは、鳥かごを使ってカメレオンを飼育していました。
エボシカメレオンの飼育環境は、保温や水供給形式の制約から、どうしても蒸れやすくなります。カメレオンは蒸れや多湿を好みませんので、通気性の確保が必須。鳥かごは、通気性の観点からは最強の存在ですから、温度管理を部屋ごとエアコンでおこなうような場合、ケージの有力な選択肢となります。
内部は、木の枝等を張り巡らせて動線を確保しているほか、ポトスの鉢を設置しています。キャプションによれば、エボシカメレオンが齧ったりすることもあるようです。照明・保温関係は、上部に蛍光灯(紫外線照射用か)とクリップ式バスキングライトが置かれていました。
カメレオンのもう一つの水供給方式、エアレーション式
ここで特徴的だったのは、エアレーション式水供給。鳥かごの下部に水をいれたプラケースを設置し、熱帯魚の飼育で使うブクブクを入れて水に動きを出しています。カメレオンが水場まで降りてこれるよう、木の枝をつかって動線も確保。上部にはドリップ式のタンクもありましたので、ドリップ式とエアレーション式を併用していることになります。
このほか、鳥かごならではの工夫として、エサを入れるプラカップが取り付けられていました。カップの中にはパウダー状のものが残っていましたので、ここにカルシウムをまぶしたコオロギなどを入れておくのでしょう。
なお、このエサ入れは、カメレオンが通る木の枝の下の方に取り付けるのが鉄則です。上から餌を狙って、舌をのばして捉えるからです。30秒弱の動画ですが、鳥羽水族館での採食風景をご覧ください。エサ入れは下に置かなければ意味がない、ということが直感的にわかると思います。
iZooのエボシカメレオン飼育レイアウト
最後にご紹介するのが、日本の爬虫類飼育における総本山ともいうべき施設、iZoo。ここでは多くの種類のカメレオンを飼育していますが、エボシカメレオンが飼われていたのはこちらのケージ。前面はガラス張りですが、上部やサイド面は通気性を考慮した目の細かいメッシュでつくられています。
この日は、閉園間近にちょうど係の方が霧吹きをするタイミングを見ることができました。霧吹き、といっても上からの散水といった規模。高い位置から作業をしていたのでよく見えませんでしたが、小型のジョウロのような器具をつかっているようです。
カメレオンは、水が滴る上部に移動して、気持ちよさそうにしています。
カメレオン飼育において、毎日の霧吹きは必須。「爬虫両生類の上手な飼い方」によれば、カメレオンは水分不足になると舌の粘度が落ち、エサの摂取にも支障がでてくるそうです。iZooのやり方を参考に、新鮮な水を与えてあげたいですね。
なお、iZooにはカメレオンの野外飼育場があります。この野外飼育場、網に覆われていない木立にカメレオンを放し飼いにするというもので、訪問時はジャクソンカメレオンが放されていました。iZooは複数の種類のカメレオンを飼育しており、カメレオン飼育者にとっては必見の施設です。
エボシカメレオンは、あこがれのカメレオンの中では飼いやすい種類。ただ、それはしっかりした飼育環境を整えることが前提です。飼育本や各施設の飼育例を参考に、生き生きと暮らせる環境をつくってみたいですね。
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