爬虫類飼育のアドバイスや専門書には、よく、ライトや照明の話が出てきます。飼育用品売り場に行ってみても、並んでいるライトの種類は様々。
どういう目的で、何を使えばよいのでしょうか?すこし長くなりますが、機能を整理してみました。
目次
カルシウム生成に必要な、紫外線灯(UVBライト)
ライトが果たす役割のうちひとつが、太陽の代わりに紫外線を供給すること。なぜ紫外線が必要なのか、ガラス越しの日光ではダメなのか等について、日立市かみね動物園の爬虫類展示施設にわかりやすい説明がありました。
紫外線、なかでもUVーBという紫外線は、爬虫類が体内でカルシウムを生成するために必要なものです。ガラスを透過しないこのUVBを補うのが、紫外線灯(UVBライト)。あくまで紫外線を発するためのライトですので、蛍光灯タイプなど単機能の製品であれば、保温効果は蛍光灯と同じレベル、すなわちあまり期待できません。
では、このUVBが不足すると、どのようなデメリットがあるのでしょうか。
UVBが不足すると、骨や甲羅がつくれなくなる
UVBが不足すると、カルシウムの吸収に必要なビタミンD3が生成できなくなります。すなわち、骨や甲羅をつくることができず、代謝性骨疾患やクル病につながります。UVBがなければ、いくらエサにカルシウムパウダーをまぶしても、意味がないのです。
このUVBを出すライト、定番では下のような製品があります。
昼夜をつくりだし、食欲・脱皮・繁殖活動を促進するUVA、可視光線ライト
さて、UVBの重要性はわかりました。では、UVAなど他の波長の光は、必要ないのでしょうか。
それを検討する前に、そもそも紫外線とは何ぞや、ということをみてみましょう。
ご覧の通り、UVBは目に見えず、ガラスも通らないもの。よって、明るいケージで飼育していても不足しがちですし、人間の感覚ではそれに気づくこともできません。なので、特に意識して用意してやる必要があるのです。
一方、可視光線が不足すればそもそもケージが暗い感じになりますし、窓からの採光で部屋が明るければ、UVAはある程度届いています。なので、UVAや可視光線は、UVBに比べて「二の次」とされるのでしょう。
ただ、UVAには食欲、脱皮、繁殖活動を促進する効果がありますし、暗い部屋では当然、太陽光・日光の代わりとなる明るさと色合いを持った光(可視光線)によって、昼夜をつくりだしてやらなければなりません。
そこで、UVA・可視光線を発するライトが販売されています。商品名には、ネイチャーとかナチュラルといった名前がつけられる傾向にあります。
なぜ「全部入り」ライトではダメなのか
ここまで、紫外線(UVB、UVA)、可視光線と、爬虫類飼育に必要な光の種類がわかりました。では、これらをまとめて照射できるタイプはないのでしょうか。
もちろん、あります。
(なお、UVBライトの項で最初にご紹介したズーメットのUVBライトは、UVAも照射するタイプです)
では、なぜ最初からまとめて照射できるタイプを使わないのでしょうか。それは、強いUVBを照射してはいけない種類もいるためです。
砂漠や高山など強い日光にさらされる地域の、昼行性のトカゲ・カメなどは、UVBの要求量が高い傾向にあります。フトアゴヒゲトカゲやパンケーキリクガメなどです。
一方、夜行性の種類や紫外線量が弱い場所にすむ種類にとっては、強すぎるUVBは害になります。すなわち、クレステッドゲッコー含む夜行性ヤモリ類、森林棲のカエルやヘビ類、アルビノ個体などには、UVBを含まないタイプの照明が必要となるのです。
人間にとって強い紫外線が有害になり得るのと同様、爬虫類にとってもUVBは諸刃の剣。種類ごと・個体ごとのUVB要求量に応じて、照明機能とは切り離して照射量(=照射時間)を調整できるUVBランプには、単体で使うメリットがあります。
なお、UVBは人間にとって有害となり得るものですので、点灯しているUVBランプを直視したり、UVBにあたったりはしないようにしてください。
熱源(温度調整器具)としての保温球(レフ球)
さて、爬虫類用ライトには、紫外線照射以外のもう一つの機能を持つものがあります。それが、保温球やレフ球と呼ばれる熱源としてのライト。バスキングライトやハロゲンライトも、保温にウエイトを置いた器具です。
爬虫類の体温調節の仕組み
爬虫類は、変温動物もしくは外温動物とよばれ、体温コントロールを外部の熱エネルギーに大きく依存します。
この爬虫類の体温調節について、千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」に素晴らしい解説がありましたので、引用します。
- 活動中のトカゲは、日光浴によって体温を上昇させ、暑くなれば日陰に移って体を冷やすという温度移動によって主に体温を調節している。活動中の爬虫類が保持しようという体温を選好温度という。これは種によってその値が異なるが、スキンク科で平均31℃、イグアナ科で36℃、テユー科のトカゲにいたっては40℃にもなる。
- 実は選好体温は致死限界高温に極めて近い。トカゲは、死ぬぎりぎりの暑さで最も活動がうまくいくのである。当然のこととして、外温が選好体温と全く同じのまま変化しなければ、細胞活動が休息することができず、トカゲは死んでしまう。
- トカゲの飼育にあたっては、ケージ内の温度を場所によって変え、ホットスポットを設ける必要のあること、昼夜の温度差を設定する必要のあることが、この、トカゲの生理からおわかりいただけると思う。
要は、自然界における太陽に代わって、外温動物の体温調整をするために、熱エネルギーを人工的に補うのが保温球。
なかでも、ケージ内に温度勾配を設ける観点からは、全体的な保温に使われる散光型でなく、照射した部分をスポット的に温める「スポット型」「集光型」の製品が必要となります。
照射する部分を集中して暖めるには、スポット型・集光型
散光型とは、電球が丸い形をしていて、すべて同じガラスで出来ているタイプの保温球。スポット型・集光型は、形が漏斗型・キノコ型で、電球の根元やサイドの部分に光をカットする加工が施されているタイプです。
スポット型・集光型の保温球は、より狭い範囲を集中的に温めますので、いわゆる「ホットスポット」をつくりだすことができます。
光(明かり)が出ない、保温機能のみのライトもある
ここまで読まれた方はすでにお分かりと思いますが、爬虫類用ライトにおいて、保温と光(あかり)は本来別の機能。よって、保温用ライトには光が見えにくい赤外線タイプのものも発売されています。
光が見えにくいタイプのものは、夜でも使えます。ただ、これを1日中つけっぱなしにしておくだけだと、昼夜の温度差はつくりだせません。また、見えにくいとはいえ、赤外線に敏感な個体にとっては、夜のつけっ放しが何らかの影響を及ぼす可能性があります。
ケージ全体の夜間の最低温度をキープするだけなら、ヒーターなど他の保温器具も採用可能。保温用ライトは、強い光を好まない、もしくは光は別に照射していて不要だが、ホットスポットはつくりだしたい、という場合に役立つライトでしょう。
紫外線照射機能と熱源機能を兼ね備えたライト
さて、紫外線・可視光線にせよ、熱エネルギーにせよ、いずれも自然では太陽がその役割を担っていて、分かちがたいものです。
爬虫類用ライトだって、両方の機能を兼ね備えたものがあっていいはずですし、実際に、あります。
UVBの項で取り上げたかみね動物園のフトアゴヒゲトカゲケージ(再掲します)にあった左の方のライトは、おそらくその保温&紫外線兼用タイプ。
また、高輝度・高光量で発熱もあるメタルハライド(メタハラ)も、このタイプといえるでしょう。
高価だが性能が圧倒的なメタルハライド(メタハラ)
メタルハライドは、高価ですが鮮やかで圧倒的な光量を照射できるライト。野球場の照明などに使われていますが、最近は動物園などでも、メタハラを使った爬虫類ケージを見かけることが多くなりました。
メタハラは、光合成が必要なサンゴ水槽用として、一般用・家庭用製品が随分前から販売されています。鮮やかな照明の海水魚水槽を見たことがある方も多いのではないでしょうか。
爬虫類用としてもUVB・可視光線・保温など多機能を兼ね備えた製品が出始めていますが、性能が高いぶん、他のライトと比べ高価なものとなっています。
爬虫類ライトは目的・状況で使い分ける
ここまで、爬虫類ライトの種類ごとに、機能をみてきました。最後に、その裏返しとなりますが、爬虫類ライトに求められる役割・目的を改めて整理します。
- カルシウム生成のために必要な、紫外線(UVB)を供給する役割
- 光周期(昼夜)をつくる役割。季節による日照時間の変化は、繁殖を誘発する。
- 空間的な温度勾配をつくる役割。選好体温が高い種類が、体温調整に利用する熱源となる。
- 時間的な温度勾配(昼夜や季節による気温差)をつくる役割。季節変化の調整は、繁殖を誘発する。必ずしもライトによらず、他の保温器具を使用することも可能。
改めて見てみると、なぜ多くの種類のライトが販売されているかが良くわかります。また、全部の機能を兼ね備えたライトより、単機能の製品が使いやすい場面も想像できるとおもいます。
夏場は温度が上がらないように、UVB照射はするが温度が上がらない直管蛍光管型が欲しい。UVB要求量はそれほど高くないので午前のみの点灯にするが、繁殖のため光周期はコントロールしたい。etc…
飼育する種類と状況に応じて、適切なライトを使い分ける。そんな観点から眺めると、「なぜこんなにたくさんのライトがあるのか」が納得できるのではないでしょうか。
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