マレーハコガメの飼育方法【ケージは?エサは?】

マレーハコガメは、水によく入る半水棲のカメながら、リクガメのようなまるく盛り上がった甲羅をもつカメ。濃いグレーに、レモン色の線が入った美しい姿をしています。

八木山動物公園のマレーハコガメ
一般的に幼体は扁平で、成体になるにつれ体高がでてくるという。

水中でも陸でも活発に動き回るその姿は、見ていて飽きません。大きさは、甲長20cmと一般家庭で十分飼育可能なサイズ。エサも人工飼料が利用可能で、比較的飼育しやすいカメと言えます。

ここでは、そんなマレーハコガメを国内トップクラスの飼育施設がどのような設備・環境で飼っているのか、詳しくご紹介します。

マレーハコガメの飼育ケージ

まずは、マレーハコガメの飼育ケージから。爬虫類飼育の専門書には、次のような記載があります。

  • 底質の軟かく、流れのゆるやかな水場に棲む。甲高が高いためと箱亀であるためによく陸棲であると思われているがこれらの特徴は必ずしも陸亀に結びつけることはできない。本種はむしろ水棲傾向が強い。陸場¼~⅓のアクアテラリウムで飼う。(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P57)
愛媛県立とべ動物園のマレーハコガメ
  • マレーハコガメはアジアハコガメの中でも特に水生傾向が強い。かといってずっと水中にいるかと言えば、そうではない。頻繁に上陸し、陸上でも行動する。どちらかといえば幼体の方が水生傾向が強いので、写真では陸場は少なめにしてある。より育ったら、陸場を広くしていけば良いだろう。(冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」P26)
  • また、陸場は必ず乾燥させる。半水生のカメが上陸するのは体温調節のためもあるが、体を乾かすという大事な理由もある。多くの種において、体を乾かせない環境で飼育すると、四肢や頭部がふやけたように白くなってしまう。さらにそれが汚い水であれば、そのまま皮膚病になってしまう。また、水中の温度が気に入らない場合、ずっと陸場にいて過乾燥になることがあるので注意したい。この逆もあり、上陸したいのに陸場の温度が高すぎてゆっくりいられないなんてこともある。(冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」P26)

これら飼育書の情報を踏まえた上で、各施設の実際の飼育環境をみてみましょう。

まずは、日本平動物園のマレーハコガメ飼育ケージです。

日本平動物園のマレーハコガメ飼育ケージ

日本平動物園の飼育ケージは、同じくらいの大きさの半水棲カメが何種類か飼われている多頭飼いのケージでした。水場も陸場も十分なスペースがあり、その割合は半々ほど。水場の深さは、マレーハコガメの甲高の2倍ほどでしょうか。

水場と陸場との境は適度な傾斜がついていて、上がりやすそうです。マレーハコガメは水中にいましたが、エサの時間には陸に上がって餌を食べていました。

つづいては、愛媛県立とべ動物園の飼育ケージ。

愛媛県立とべ動物園のマレーハコガメ飼育環境

こちらも広いケージです。水場は全体の3分の1くらい、陸場は3分の2くらいで擬岩の部分と砂場の部分にわかれています。

水場の水深は、甲羅が完全に浸かる深さはあるものの、足は底に余裕で届く感じ。

ケージには、セマルハコガメが同居していました。臆病でより陸棲傾向が強いセマルハコガメのためか、大きな素焼きの植木鉢のシェルターが2つ用意されています。

マレーハコガメは水場にいた個体もいれば、砂場にいた個体もいました。

砂場のマレーハコガメ

最後は、仙台市八木山動物公園のケージ。

八木山動物公園爬虫類館は、カメ、なかでも半水棲ガメやハコガメの展示が充実した施設です。ここでは、マレーハコガメは他のカメと同じケージでなく、マレーハコガメ専用の場所で飼育されていました。

仙台市八木山動物公園のマレーハコガメ飼育環境

ケージには水場が2カ所あり、あわせて全体の3/4程の面積を占めています。水深は、片方は潜って泳げるが立てば足がつく程度、片方は甲全体が浸る程度。なぜ2カ所水場があるのかは、後述します。

陸場は、岩の部分と、人工芝が敷かれた平らな部分からなり、残りの1/4を占めます。人工芝が敷かれた部分には、砂が敷かれた平たい皿と、ミズゴケが敷かれた平たい皿が置かれ、砂が敷かれた平たい皿の上にはバスキングランプが吊るされていました。

3つの施設とも、水場と陸場の両方について、動き回れる広さのスペースがありました。また、いずれの施設のマレーハコガメも、水陸両方のスペースで活動していました。マレーハコガメの水場は、水の入ったバットを置いておく程度だと物足りないでしょうし、陸場もある程度の面積が確保できれば理想的です。

マレーハコガメの飼育温度、バスキング

マレーハコガメは、その名のとおりマレーシア、フィリピン、インドネシアといった東南アジア地域のカメ。飼育温度は、

  • 20~30℃が適温(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P57)
  • 寒さに弱い(仙台市八木山動物公園爬虫類館のキャプション)

とされています。

中型サイズで活発に動くカメですから、初夏から初秋にかけて、屋外のトロ舟などでのびのびと飼育するのは良いアイデアかもしれません。

沖縄こどもの国のカメ飼育場

ただ、本州での通年屋外無加温飼育は危険。沖縄で3月に屋外飼育をしているのを見かけたことがありますが、そのあたりが限度かもしれません。通常の地域では、秋~春は室内飼育とすべきでしょう。

沖縄こどもの国では、マレーハコガメが屋外の池で飼育されていた

室内飼育の際の保温では、バスキングライトを上手くつかった例がみられます。

たとえば、安佐動物公園のマレーハコガメ飼育スペース。手前に三畳ほどの水場があり、奥に陸場がある構成です。その奥の陸場の様子がこちら。

安佐動物公園のマレーハコガメ

カメたちは気持ちよさそうにライトに当たっています。おそらく蛍光灯がUVB照射系、スポットライトが保温系の役割を負っているのでしょう。

八木山動物公園の様子は・・・

八木山動物公園マレーハコガメ飼育ケージ
光の関係でバスキングライトが見えにくいが、前項の全体写真でも確認可能。

バスキングライト直下の砂の入った平たい皿で甲羅干しをしている個体が見えます。訪問は3月初めでしたが、太陽光が差し込むなか、気持ちよさそうに日光浴をしている姿が見られました。

一般に、池や沼に住むカメは日光浴が大好きですが、マレーハコガメもその例にもれません。太陽光の代わりとなる各種ライト類の準備は必須でしょう。

マレーハコガメのエサ

最後に、マレーハコガメの餌についてみてみましょう。まずは飼育書の記載から。

  • 雑食性で野菜や人工飼料から小魚まで食べる(冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」P26)
  • 雑食で、肉・貝・ミミズ・昆虫・トマト・バナナ・菜類等を、よく水中で食べる(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P57)
  • 植物を主体とした雑食性です。クサガメのようにエサを水中に持ち込んで食べる習性があるので、その意味でも水場が欠かせません(富田京一著「ザ・爬虫類&両生類」P24)。

各施設で実際に与えていた餌はというと・・・

八木山動物公園では、下の様にアジかイワシのような光物の魚、ゆで卵やニンジン、サツマイモ、リンゴ、菜っ葉を刻んだもの等をあげていました。

八木山動物公園のマレーハコガメのエサ

飼育書には水中でエサを食べる、とありましたが、八木山動物公園ではその通り水場でエサを食べさせています。水場でエサ、特に人工飼料以外の生の餌をやると、水がすぐ汚れます。八木山動物園のマレーハコガメの飼育スペースには水場が2つあり、ひとつは浅く小さな水場でしたが、これはエサで水が汚れることを考慮し、エサ用の水場を用意しているのかもしれません。

一方、とべ動物園では、陸場のバットの中に餌を入れていました。中身は、トマトを刻んだもの、菜っ葉を刻んだもの、ふやかした人工飼料。人工飼料は陸では乾いたままだと食べにくいでしょうが、ちゃんと水を吸わせてあれば、しっかり食べてくれるようです。

とべ動物園のマレーハコガメのエサ

なお、とべ動物園のキャプションの<食べ物>の項には、「草食傾向の強い雑食(葉、果物、水草、昆虫類、貝類、魚類など)」とありました。

日本平動物園も同じく陸場のバットでの餌やり。トマト、柑橘、バナナ(?)を刻んだもの、魚の切り身、湿らせた人工飼料を与えています。キャプションは、「植物食性が強い雑食です。」

日本平動物園のマレーハコガメのエサ

水替えが大変な場合、とべ動物園や日本平動物園のように、陸でも餌を食べるよう慣らしていくのが良いのかもしれません。日本平では、水中にいた個体が餌やりタイムになるとしっかり陸に上がってきていました。

マレーハコガメの飼育方法まとめ

さて、マレーハコガメの飼育について、ここまでの情報をかんたんにまとめてみます。

  • ケージには、水陸両方が必要
  • 東南アジアのカメであり、バスキング・保温設備が必要
  • エサは草食傾向がある雑食で、人工飼料が利用可能

マレーハコガメは、「孵化直後の幼体は甲長44~48㍉で条件が良ければ半年で甲長8㌢ほどになる(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P57)」と、すぐに大きくなるカメです。甲長20㎝になる成体が水陸両方で過ごすことを考えると、いずれは90センチクラスの水槽が必要となってきます。ただ、個人が持て余すような種類ではなく、環境を整えれば飼いやすいカメと言えるでしょう。