シマヘビは、アオダイショウと並び立つ日本産ヘビの普通種。毒がなく、適度な大きさと美しい外見をもつことから、飼いたいヘビの候補としてアオダイショウと1,2を争います。
どちらも素晴らしいヘビですが、両者には飼育上、すこし異なる点があります。そこで、アオダイショウとの比較に留意しながら、シマヘビ飼育のポイントについてまとめてみました。どちらを飼育しようか悩んでいる方は、必見です。
目次
文献にみるシマヘビの飼育方法
まずは、参考になる文献からシマヘビについての記述を一部引用します。
日本産爬虫類両生類の飼育と言えばこの本・大谷勉著「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」には、シマヘビについて次のような記載がありました。
生態
アオダイショウと同様に低地から山地に広く生息するが、成体でもカエル類を好み水辺に多い。側稜は強くなく、主に地表で活動するが、低木などに登ることもある。動きは敏捷で、泳ぎはうまい。主に昼行性。
餌
カエル類、トカゲ類、鳥類、小型哺乳類を捕食するが、特にカエル類を好む傾向がある。飼育下ではマウス、ヒナウズラ、ヒヨコ、鶏肉、鶏手羽、鳥ハツなど。
飼育ケージ
シマヘビ・ジムグリ・サキシママダラは、低木には登るが主に地上棲で、飼育ケージは床面をできるかぎり広めに確保する。特にシマヘビ・ジムグリは神経質な面があり、飼育ケージ内には餌を順調に食べるまで、体を隠すことのできるギリギリの広さのシェルターを設置するとよい。
飼育ケージの大きさ
90cm水槽サイズ(横型)。
飼育ポイント
多少神経質なので興奮させないように。餌の偏食傾向がある。
小家山仁監修「カメとイグアナ・ヘビ・トカゲ」には、
シマヘビ・・・「山地から平地の地表に生息し、森林などよりも太陽のよく当たる場所を好みます。」「主に昼に活動し、カエルやトカゲ、小鳥などの小動物をとって食べます。」
アオダイショウ・・・「スズメやネズミなどを食べるので、民家の近くや家の屋根裏に生息していることもあります。」「樹上生。」
と記載されています。
他の飼育書やさまざまな飼育施設の解説でも、
- 樹上性のアオダイショウに対して、シマヘビは地表性寄り
- ネズミ・鳥類を主に食べるアオダイショウに対して、シマヘビは食性の幅が広く、カエル類なども食べる
- 性格は神経質
といったところが共通して挙げられていました。
続いて、国内の一流の飼育施設がシマヘビをどう飼育しているかをご紹介します。アオダイショウとの比較の観点から、当サイトアオダイショウのページでご紹介した施設と同じ施設を中心に取り上げます。
札幌市円山動物園のシマヘビ飼育ケージ
まずは、札幌市円山動物園の飼育環境。こちらでは、普通のシマヘビと、黒化型のカラスヘビが展示されていました。
普通のシマヘビのケージは、造り付けの体が十分入る大きさの水場を備えたケージで、明るめの採光が確保されています。床面は、
- 湿った感じの細かい黒い砂利が敷かれた部分
- 植物が植えこまれた部分
- 造り付けの水場の奥にある、乾いた平たい擬岩の部分
からなっています。
なかには、シンプルな登り木が一つと、ケージ造り付けの中間棚が設けられ、シマヘビは中間台の上にいました。
カラスヘビのケージも、同じく明るめの光が入る構造。床材は同じく湿った感じの砂利でしたが、粒はこちらの方がやや大きめです。植物(シダ)を植えこんだ部分と、水場があるのは同じ。
登り木と中間棚についても、普通のシマヘビと同様に用意されていました。ただ、こちらのカラスヘビは、湿った砂利の上にいました。
円山動物園には、アオダイショウと同じくシマヘビの解説資料も用意されています。比べて読むと参考になります。
カエルも与えたいシマヘビの餌
ヘビの餌としては、栄養面から完全食と言われるマウスや、安価で入手しやすいヒヨコ・ウズラ類が多く流通しています。
ただ、野生下で多種多様なエサを摂取しているヘビには、飼育下でも同じくいろいろな餌を与えて偏りをなくしておきたいもの。特に、シマヘビには、好物のカエルを押さえておく必要があります。
生息地付近で野生のカエルが入手できれば理想的ですが、安定調達の観点から難があります。カエルはマウスやヒヨコ類に比べてさほど一般的に流通していませんが、アロワナなどのエサ用にツメガエルやウキガエルが販売されていますので、こういったものも一つの選択肢になります。
シマヘビは神経質なヘビです。餌を与えるとき、特に野生個体捕獲後の初回の給餌には注意が必要。前述の大谷勉著「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」は、捕獲方法や捕獲後の給餌方法についての記述が充実していますので、ぜひご参照ください。
仙台市八木山動物公園のシマヘビ飼育レイアウト
続いて、仙台市八木山動物園のシマヘビ飼育環境。大きさ・造りがほぼ同じケージでアオダイショウを飼育していましたが、中のレイアウトはすこし異なります。
アオダイショウのレイアウトには、複数の登り木が入れられ、立体的な動きがしやすいようになっていました。アオダイショウ自身も、枝に絡んで良く動き回る感じ。一方、シマヘビのケージには、木の枝は入れられているものの、コンパクトなものが数本置かれているのみです。
樹上性でよく木に登るアオダイショウに対し、どちらかといえば地表にいることが多いシマヘビ。その性質を反映させて、枝組みを小規模に抑えていると思われます。
シマヘビにはピッタリサイズのシェルターを
もう一つの違いは、アオダイショウになかった植木鉢のシェルターが2つも設置されていたこと。八木山動物公園には、コーンスネークやカルフォルニアキングスネークもいましたが、植木鉢のシェルターが入っていたのはシマヘビのみ。神経質な性格を考慮して、設置しているのでしょう。
植木鉢のシェルターは、縁を割って欠けさせ、入り口部分をつくっていました。大きさは、とぐろを巻いた状態がちょうど収まるピッタリサイズのものと、それより少し大きいサイズのものがひとつずつ。シェルターは、狭い場所に隠れて安心するためのものですから、あまり大きいと落ち着きません。ここの植木鉢のサイズ感は、とても参考になります。
ケージの床面は、造り付けの水場部分と、乾いたコンクリートの部分、乾いた小石が敷かれた部分、湿った水苔が敷かれた部分+仕切りのいくつかの岩からなります。他の種類のヘビに比べると、湿ったミズゴケの部分がやや広めです。
シマヘビは、乾いた小石の上を這っていたり、水場で泳いでいたり、湿った水苔の上の岩陰でとぐろを巻いていたりしました。
ジャパンスネークセンターのシマヘビ屋外飼育場
次は、野生での生息環境に近い屋外での飼育施設をみてみます。野外の広い地面をコンクリで囲み、上から眺める方式の飼育場を持っていたのは、群馬のジャパンスネークセンター。
飼育場のなかには、大きなケヤキの木が一本と、人の背丈を超すくらいの大きさの木が何本か生えています。地面は、一部は側溝やコンクリ面となっていますが、ほとんどがむき出しの土のまま。適度に雑草が生えています。
シマヘビは、土の上をするすると移動したり、木陰のジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の上に陣取ったり。
日陰をつくるために用意されたよしずの上や、太さのある水平な木の枝の上に横たわる姿も見られました。
なお、ここでは併設の食堂でマムシ料理やシマヘビ料理を食べられます。屋外に広い飼育場が用意され、多くの個体が飼育されていたのもマムシとシマヘビ。この飼育場は、シマヘビの養殖場なのかもしれません。
上野動物園のシマヘビ飼育環境
最後は、上野動物園のシマヘビ飼育環境。ここにいたシマヘビは、カラスヘビでした。
ケージ内には、シンプルな木の枝がひとつ、かなり大きな水入れがひとつ、シェルター代わりの流木がひとつ。
床材は、すこし湿り気を帯びたやや目の細かい赤玉土のうえに、ヤシガラを敷きつめていました。シマヘビは、流木の陰を定位置としているようです。
上野動物園では、ニホンマムシ・ジムグリのケージには木の枝(登り木)を入れていませんでしたが、アオダイショウとシマヘビのケージには入れていました。
シマヘビケージにもほしい中間棚
シマヘビは地表にいることも多いですが、高所も好む模様。円山動物園でも中間棚の上にいましたし、ジャパンスネークセンターでもよしずや太い木の枝の上に横たわる姿が見られました。アオダイショウより構造物に絡みつく場面は少ないものの、見下ろされない高所がひとつの安心できる位置なのかもしれません。
上野動物園と同じ東京都系列の大島公園の事務所にいたシマヘビ(伊豆大島のシマヘビは基本的にカラスヘビです)も、高い位置を確保すべくケージの上部に体をひっかけていました。
地表で活動するシマヘビのケージに複雑な枝組みは不要かもしれませんが、底面積は確保したいもの。中間棚をつくれば、お気に入りの場所になるかもしれません。
シマヘビの飼育方法まとめ
シマヘビは、アオダイショウに比べて
- カエルなど入手が難しい餌も好む
- 神経質な性格で、シェルターがいる
- 地表性で、より広いケージが必要
といった点があり、飼育もすこし難しくなります。しかし、スマートな姿かたちや、漆黒のカラスヘビのカッコよさは、他に代えがたいもの。日本の温度気候にあった普通種のヘビですから、ポイントを押さえた飼育でその魅力を楽しみたいものです。