ウーパールーパーは、小さな目が可愛らしい人気の両生類。野生では、生息地が限られる上にその開発が進んで絶滅寸前となっていますが、養殖された個体が広く流通しています。
エサは、面倒な生餌を調達する必要がなく市販の人工飼料を利用可能。飼育設備も、極端な話、水を入れる容器があれば大丈夫。
夏の水温上昇や冬の凍結には気を配る必要がありますが、人間が快適に過ごせる室温で飼う限りヒーターなどは不要。水換えで水質を維持できれば、濾過器具も不要。電気が必要な器具がいらないという意味では、熱帯魚よりかんたんに飼育できます。
要は、ウーパールーパーは初心者でも飼いやすい入門種。ただ、それだけに気を付けてほしいことがあります。飼いやすく、安価で入手できる種類は、飼育が雑になりやすいのです。
このページでは、プロがお客さんに展示するためにつくったウーパールーパー水槽をいくつか紹介します。紹介する飼育環境は、いずれも一流の施設で丁寧につくられ、メンテナンスされているもの。ご一読いただき、ウーパールーパー飼育のヒントとしていただければ幸いです。
目次
マーブルの個体が白砂に映える・ロンドン動物園爬虫類館のウーパールーパー展示
ガラパゴスリクガメやコモドオオトカゲをはじめ、世界各地の爬虫類両生類を幅広く展示するロンドン動物園。ここでは、原種に近い黒色の個体と、白色の個体のが別々の水槽で飼育されていました。
まずは、白化個体の水槽。ここのウーパールーパー(白い個体は厳密にはLake Patzcuaro Salamander or Achoqueという近縁種と思われる)は、白といってもアルビノのような白ではありません。目の色は黒、外鰓の色も黒、手足の指先の色も黒で、全体はグレーに近い白。
水槽内は目の細かい白砂が敷き詰められ、いくつかの大きな石とウィローモスが入れられていました。石はシェルターとしての役割をはたしていて、上の写真では重なった石の隙間からウーパールーパーの顔が覗いているのが見えます。
続いて、野生に近いと思われる、黒っぽい個体の水槽を見てみます。
こちらも、敷き詰められた白砂と茶色の岩からなるレイアウト。水草として、アナカリスが植えこまれています。茶色の岩は、水槽の背面に積み上げられていて、おそらく擬岩。この水槽にも、岩の間で休む個体がいました。
ブラックやマーブルのウーパールーパーは、白砂によく映えます。底砂は通常、黒系もしくは茶系の色が多いため、黒系の個体を普通の底砂で飼うと地味な雰囲気になりがち。ロンドン動物園では、黒系個体をアクセントとなる緑の水草を配した白砂の水槽で飼い、魅せるレイアウトとしていました。
手持ちの熱帯魚水槽の流用が可能・足立区生物園のメキシコサラマンダー水槽
家族向けにきれいなレイアウトで生き物を展示する足立区生物園。ここでは、メキシコサラマンダー(ウーパールーパー)を含むいくつかの小型の生き物が、家庭でも入手可能な飼育用品で展示されています。
飼育されていたウーパールーパーは、リューシスティックと呼ばれる黒い眼をもつ白色個体。二匹が岩で組まれたシェルターの中にいました。シェルターは水槽の前面に設置されているため、姿がよく見えます。
水槽内には、シェルターを含むいくつかの岩と、大きな流木が入れられています。流木や水草は、ウーパールーパーの産卵時に卵を産みつける場所になります。
底砂(床材)は、観賞魚の飼育で使用される大磯砂。水槽もノーマルな60センチ水槽で、左奥には濾過器具が見えます。この構成、熱帯魚や金魚を飼育したことがある人にはお分かりのとおり、一般的な観賞魚水槽の設備そのもの。過去に魚を飼っていた人であれば、手持ちの水槽を活用してつくれそうなレイアウトです。
「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」のメキシコサラマンダーの項には、
ビバリウムのサイズ:60×30×30cmのガラス製アクアリウムにペア1組
床材:アクアリウム用の砂利
とありますので、大きさもぴったりです。
水槽全体の姿を見ると・・・
上にろ過装置が載っています。左奥の吸い込み口から水を吸い上げる仕組みの、上部フィルターの観賞魚水槽で飼育していることがわかります。
ウーパールーパーの水槽に適した濾過方式
この水槽で採用されている「上部濾過」とは、濾過フィルターが水槽の上部に設置されている濾過方式をいいます。水槽で採用される濾過フィルターには、
- 外部フィルター
- 上部フィルター(外掛け式フィルター含む)
- 底面フィルター
などがありますが、上部ろ過は、以下の理由からウーパールーパー向きと言えます。
理由1:ウーパールーパーは肺呼吸もできるが、基本的にはエラ呼吸で過ごす。鰓呼吸では、水中に酸素が多く含まれていることが重要。上部ろ過は、外部ろ過や底面ろ過と比べて酸素を多く取り入れることができる濾過方式である。
理由2:ウーパールーパーは小型魚などに比べてエサや排泄物の量が多い。底砂をフィルターとして使う底面ろ過では、底砂がエサの食べ残しやフンなどで目詰まりしやすく、メンテナンスが煩雑。外部フィルターも、ホースを外して本体を開けて掃除する必要がある。一方、上部フィルターはフタを開けて濾材をメンテナンスするだけで、比較的手間がかからない。
濾過方式の検討にあたってはこのほかに、
- 高水温に弱いウーパールーパーには、水中に動力がある濾過方式は水温があがりやすく向かない
- 足でつかまる力が弱いウーパールーパーには、強い水流が発生する濾過方式は向かない
といった点にも気を付ける必要があります。
コンスタントに繁殖を成功させる蓼科アミューズメント水族館の多頭飼いレイアウト
日本一標高の高い場所にある水族館、蓼科アミューズメント水族館。こちらは、ウーパールーパーを安定的に繁殖させる、高い飼育技術をもった施設です。
本来の生息地・メキシコでは水質汚染などにより生息数は100匹とも言われ絶滅寸前だが、水族館では丁寧に飼育し、年間250匹ほどの繁殖に成功しているという。
とのこと。展示されている個体は、マーブル(野生種と同じ体色)、ゴールデン、アルビノなど多数。当館生まれ・当館育ちと記載があり、ここで繁殖された個体のようです。
水槽には大磯砂が敷かれ、中央あたりではエアレーションがかけられています。特徴的だったのは、ひとつの水槽で多頭飼い・混泳を実現させていること。
共食いに注意、ウーパールーパー複数飼育のポイント
ウーパールーパーは、「幼生を集団で飼育すると共食いが起きます」(「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」)。すなわち、複数飼いができるのは、写真のようにある程度の大きさになってから。
また、これはウーパールーパーに限らず生き物一般について言えることですが、共食いを防ぐためには、
- エサをしっかりやって、不足させない。
- 大きさの異なる個体を一緒にしない。
- 過密にしない。
ことが基本です。
多頭飼いは、共食いのほかに水質悪化にも注意が必要。濾過設備や水換えの頻度、水槽掃除にお金と手間をかけなければなりません。
蓼科アミューズメント水族館では、ひとつの水槽に何匹ものウーパールーパーが飼育されていました。ロンドン動物園や足立区生物園の例をみてもわかる通り、ウーパールーパー成体の複数飼育は、不可能ではありません。外鰓がかじられていないか、手足がかじられていないか(ウーパールーパーは再生能力を持ちますが)など、普段の状況にしっかり目を配った上で、多頭飼育を楽しみたいものです。
番外編:ウーパールーパーを池で飼育するiZoo
冒頭で述べた通り、ウーパールーパーは、人間が快適に暮らせる温度であれば、ヒーターなどの温度管理器具がなくても飼える生き物。水質とある程度のスペースが確保できれば、飼育容器も選びません。ということで、小さな池でウーパールーパーを飼育していたのがiZoo。
この池は完全な屋外ではありませんが、建物と建物をつなぐ廊下の一角にあります。廊下の片側にはガラス面の壁が、もう片側には塀がありますが、基本的には外の空気が入る半屋外の環境。屋根はついていますので直射日光はあたりません。
ウーパールーパーの水温
ウーパールーパーの池飼いは珍しいですが、池の方が水槽より元々の生息環境に近いでしょうから、水温や外敵のコントロールが出来ればよい飼育環境となりえます。水温のコントロールと言っても、ウーパールーパーの適応力はかなり幅広く、適温は、
- 水温15~25℃がよい。(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」)
- 夜間は最低10℃(「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」)
- 夏までにしっかりと飼育されていたものなら、よほど上がりすぎない限り大丈夫(27~28℃程度なら耐える)。(冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」)
といった水準。夏と冬は屋内で飼うといったレベルで大丈夫そうです。
ところで、池で飼育したときに、池からウーパールーパーが逃げ出すことはないのでしょうか。
幼形のまま成体になるウーパールーパー
「爬虫両生類の上手な飼い方」によれば、ウーパールーパーは、
- 外鰓のついた幼生の形のまま成熟(幼形成熟=ネオテニー)する、珍しいサラマンダー。ごく稀に、飼育していると外鰓が縮んで変態することはあるが、本来は完全に水棲生活を送る種。
- メキシコサラマンダーは、水生形態の幼体の形のまま成熟するという不思議な性質を持つが、ありがたいことにそれはすなわち一生涯水中飼育できるということなのだ。感覚的にはほぼ魚と同じ感覚でかまわない。~中略~完全に水生(なんたってエラ呼吸だ)なので、飼育は水を張った水槽で。
とあり、陸に上がってしまうことはなさそうです。
「爬虫両生類飼育図鑑」でも、
- 滅多なことでは変態しないから、アクアリウムで飼う。
とあります。
ここでいう変態とは、オタマジャクシがカエルになったり、日本産サンショウウオの水中で暮らしていた幼体が、鰓がなくなって上陸できるようになるような事態を指します。
ウーパールーパーは、滅多に変態しないまま水中で暮らすようですから、池で飼っても逃げることはなさそうです。ここは、アカハライモリなどとの大きな違い。ただ、何かの拍子に飛び出てしまうといったことはあり得るので、そこは注意が必要です。
ウーパールーパーの変態
滅多に変態しないウーパールーパーですが、どのような時に変態するのでしょうか。
名古屋市東山動物園自然動物館のアホロートル(ウーパールーパー)の説明には、
メキシコサンショウウオのうち幼形のまま変態しないで成熟したものをいい、そのまま繁殖でき一生を水の中で過ごします。しかし水温が高くなったり水中のヨード分の増加などで変態する事があります。
と書かれています。
「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」には、
(Q)メキシコサラマンダーの変態を早められますか?
(A)変態を促すチロキシンを投与すれば可能です。また、ごくわずかずつ徐々に湿度を下げていっても促進できるといわれていますが、死んでしまう場合もあります。絶滅に瀕している種なので、自然に任せるのがいちばん良いでしょう。
とありました。いずれにせよ、通常の飼育下で変態する事はなさそうです。
シンプルな基本形・Kawazooのウーパールーパー水槽
さて、最後にご紹介するのが、ウーパールーパーを池飼いしていたiZooの姉妹園、Kawazooの水槽。こちらは、成体になる手前のサイズのウーパールーパーを、とてもシンプルな設備で飼っていました。
水槽は、四方がアクリル面のフチなし水槽で、穴あきの透明な蓋がされています。水槽のなかには、エアレーションと水温計。水温は18℃を示していました。
水槽のアクリル面には、細かな気泡がついています。水替え後などにはこのようになりやすいのですが、これは水中に溶け込んでいる気体の量が多いサイン。ウーパールーパーはエラ呼吸をしますので、溶存酸素量が多い状態は良い環境となります。
底砂は、大きめの茶色いザラザラした感じの砂利。ウーパールーパーは手足が弱々しいので、ベアタンクだと滑って歩きにくそうですが、これならしっかり動き回れそうです。ライトは弱めのものが一本。隣のアンダーソニーサラマンダーも、同じ設備での飼育でした。
ウーパールーパーは環境にうるさくなく、繁殖も容易なため広く流通しています。しかし、もともとは遠く地球の裏側・メキシコの高地からやってきた貴重な両生類。雑でなく、魅せるレイアウトで丁寧に飼いこみたいですね。