飼育に向く爬虫類の条件とは、何でしょうか。
- 餌の入手が容易
- 温湿度・日照等の要求環境条件が整えやすい
- 飼育下での繁殖が容易
- 適度な大きさ
- 人馴れする
などが挙げられます。
フトアゴヒゲトカゲは、3~5(繁殖、サイズ、人馴れ)を問題なく満たしています。1(エサ)は、単一の固形人工飼料で一生飼える、というレベルではありませんが、比較的手間がかからない方。2(環境条件)も、日本の屋内で無加温飼育可能、とはいきませんが、一定の器具を用意すれば、難しくありません。
ここでは、そんなフトアゴヒゲトカゲの1:エサと、2:飼育環境について、プロの飼育家がどうしているかを紹介します。
目次
飼育参考書にみるフトアゴヒゲトカゲの飼育環境
フトアゴヒゲトカゲは、飼育下での繁殖が容易なことから、古くから飼育に関する知見が蓄積されています。以下、項目ごとに参照します。
床材
- 埃のたたない砂(「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」P53より)
- 特に種類は問わないが、新聞紙などのツルツルすべるものは爪の発育障害などを起こすので避ける。砂を使う場合、まめに糞を掃除しないと臭いが溜まるので注意(冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」P63より)
温度、湿度
- 低温部は28℃、ホットスポットは40~43℃。夜間は21~24℃。光周期:14時間(「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」P53より)
- 気温25~35℃にし(ホットスポットは40℃近くてかまわない)、夜間は18~20℃程度に落とします。完全に熱帯性のトカゲではないので、冬は少し温度を下げて休ませます(富田京一著「ザ・爬虫類&両生類」P53より)
紫外線
- フルスペクトル(UVB)ライトにレフ球(「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」P53より)
- 紫外線要求量の多いトカゲである。ここでは小型メタルハライド(通称メタハラ)を使っているが、これは蛍光管タイプでも電球タイプでもかまわない。小型メタハラはそれほど熱を発しないので、ここでは熱を供給するために光の出ないタイプのランプ(50W)を併用している。紫外線の照射と熱の供給を同時にできるランプも販売されている(「爬虫両生類の上手な飼い方」P63より)
ケージの広さ、居住環境
- 150×60×45cm。隠れ家としてブドウの木やコルクバーグ、スポットライトが直接あたる場所に日光浴用の岩を置く。小さな水皿も必要(「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」P53より)
- 単独飼育でも奥行きは45cm欲しい。コミュニケーションをとるためにも前開き式がベスト。本種の良いところは、たとえば60センチ程度のケージしか置けなくても毎日部屋に放して遊ばせてやれば、そうストレスにならないところで、ペットとしては非常に優秀である(「爬虫両生類の上手な飼い方」P63より)
フトアゴヒゲトカゲには床材を敷く草津熱帯圏
飼育書の内容を踏まえて、国内有数の爬虫類飼育施設における実際の飼育環境をみてみます。まずは、群馬県の名門施設・草津熱帯圏のレイアウトから。
ケージ内には、ライトが2つ、吊るされています。その直下には平たい石が置かれていて、日光浴が出来るようになっていました。石の大きさはフトアゴヒゲトカゲの体が上におさまるくらい。石からライトまでの距離は、30センチちょっとです。
中には、登れる太さの流木が斜めに設置されています。フトアゴヒゲトカゲは、「半樹上性で、よく低い木に登る」トカゲ(「ザ・爬虫類&両生類」P53)。ケージ内にはその他にも木の枝などが置かれ、体の置き場所・足がかりとなる場所を提供していました。
フトアゴヒゲトカゲだけには、赤玉系の床材が敷かれていた
床材は、床全面に3ミリサイズの赤玉系のものが敷かれていました。基本的に乾いていましたが、湿っている場所もあります。
草津熱帯圏は、爬虫類飼育の名門として長年の実績をもつ施設。トカゲも10種類以上が飼育されています。ただ、トカゲのコーナーで床材が敷かれていたのは、フトアゴヒゲトカゲのケージだけ。サイズが近いエリマキトカゲ、ヒガシアオジタトカゲ、インドシナウォータードラゴン、コガネオオトカゲのケージは、床材が敷かれていませんでした。
床材は、メンテナンスの手間がかかります。エサの食べ残しやフンなどで汚れれば、その場所をこまめに交換・補充する必要があります。全体も、定期的に入れ替えなければ環境を保てません。
飼育する種類によって、例えば樹上性種などには、床材を敷かないレイアウトの方が効率的な環境維持・メンテナンスが可能。
草津熱帯圏は、多くの爬虫類を飼育しつつも、個々のケージはきちんと手入れされ、状態はとても良好です。前述のようなメンテナンス効率についても考慮し、見映えだけの理由では床材を敷いていないと感じます。その草津熱帯圏で、フトアゴヒゲトカゲのケージには床材が敷かれていたという点、頭の片隅にとどめたい情報です。
ホットスポットを片側によせる天王寺動物園
続いては、天王寺動物園の爬虫類館アイファーでの飼育環境です。
まずは床材ですが、おそらく赤玉土系と思われるものが敷かれています。粒の大きさは不揃いで、乾いた状態。
ケージの左側には、ライトが照射されたスポットがあり、直下には平たい岩が置かれています。右側には、コルクバーグのシェルター。半円形のものが伏せておかれていて、大きさは中に入って隠れられるサイズです。フトアゴヒゲトカゲは、中には入っていませんでしたが、コルクバーグの陰の部分にいました。
周りより少し高くした位置にホットスポットをつくり、体を置く場所とする。この形態は、草津熱帯圏と似ています。さらに、その位置をケージ内の片側に寄せていたのも、共通点。天王寺動物園はホットスポットを左側に寄せ、草津熱帯圏は右側に寄せていました。
ケージの広さは、中に日陰で涼しい場所を用意できるか考えて決める
ホットスポットを片側に寄せると、ケージ内に温度勾配ができます。ホットスポットがない方は、日陰で涼しい状態。あえてエリアを分けることによって、体温調節がしやすくなります。また、設定温度が暑過ぎる場合にも寒すぎる場合にも、逃げ場が出来ます。
実際、天王寺動物園のフトアゴヒゲトカゲも、草津熱帯圏のフトアゴヒゲトカゲも、訪問時はライトがあたらない方で休んでいました。
前述の飼育書には、フトアゴヒゲトカゲのケージサイズについて、「たとえば60センチ程度のケージしか置けなくても毎日部屋に放して遊ばせてやれば、そうストレスにならない」という記載がありました。
ケージの大きさを考える上では、住処としての広さの観点に加え、ホットスポットと涼しい場所の両方が確保できているかどうかの視点も重要。ホットスポットを加温した時、涼しい場所の温度が20℃台後半以下であれば、一応基準は満たしているといえるでしょう。
底面積を確保するiZooの飼育ケージ
最後に、日本の爬虫類飼育の総本山、iZooの飼育ケージを参照します。
- 陶器製の水入れ(天王寺動物園と同じ製品)
- プラスチックのエサ皿
- ところどころに小粒の砂利が混ざる、乾いた砂の床材
- 岩の上に照射されるライト
といった大まかな構成は、草津熱帯圏や天王寺動物園と共通しています。ただ、ケージが大きいので、ライトが照射される岩は登って運動できるサイズの大きなものが使われています。
草津・天王寺と違ったのは、ケージの造り。ここは、床面を囲って飼育ケージとし、生体を上から見せるスタイルでした。
フトアゴヒゲトカゲは、地上性のトカゲ。ケージの大きさは、高さでなく底面積の確保が重要になります。iZooは、横から眺める水槽のようなケージでなく、周りを囲んで上から眺めるタイプを採用することで、大きな岩が置けるくらい広い飼育スペースをつくりだしています。
この考え方は、個人でも応用ができます。保温器具への耐熱と、上部からの逃亡防止策を講ずれば、衣装ケースなど安く使えそうなアイテムは沢山あります。
上部からの逃亡防止は、上に蓋を設けるほか、囲いの高さをコントロールすることでも可能です。iZooの囲いの高さは、応接テーブルより高く、食卓テーブルより低い水準。上の写真の右下に写っている枠の高さを参考にしてください。
なお、フトアゴヒゲトカゲの幼体は、下の写真のとおり成体より身軽です。
上部にフタを設けない場合は、特に逃亡防止に注意を払ってください。逃亡防止のため、運動できるような木の枝や高さのある岩を取り除いたレイアウトとするのは、本末転倒です。
絶対に必要な紫外線灯(UVBライト)と保温球
フトアゴヒゲトカゲのライト選定にあたっては、「光」と「熱」の2つを意識する必要があります。
光の面では、UVB(紫外線)が含まれるライトが必須。フトアゴヒゲトカゲは紫外線要求量の多いトカゲですから、UVBが強めの製品を選び、時の経過とともに照射量が減衰していないかのチェックが必要です。UVB照射をしなければ、カルシウム生成ができず、骨の異常やクル病につながります。
熱の面では、前出のとおりホットスポットとして局所的に40度近くになる場所を用意してやらなければなりません。自然界では太陽の光で暖まりますが、太陽の代わりに熱を補うのがバスキングライトです。岩や石に照射すれば、そこが温まってお腹側からも保温できます。
ここで、かみね動物園はちゅうウるい館のフトアゴヒゲトカゲのケージを例に、ライトの種類を確認してみます。
ケージの写真をみると、左側につり下がっている電球とは別に、右上にも照明があるのがわかります。
上は?と見上げてみると・・・
右側に蛍光灯のようなライトがあるのがわかります。この右側の蛍光灯のようなライトは、おそらくUVBを照射するためのもの。左側のつり下がっている電球のようなライトは、光(UVB)に加えて熱源としての機能も持つものと思われます。
要は、ライトはUVB含む光と熱の両方の観点から設置する必要があるということ。これらのライトの詳しい機能や選び方は、別記事(どう違う?爬虫類用ライトの種類と役割【メタハラ・バスキング・UVB】)にまとめてありますので、参考にしてください。
さて、フトアゴヒゲトカゲのケージは、ホットスポット以外の場所も20度台後半、夜間でも20℃前後の温度をキープしなければなりません。このため、ホットスポットとは別に、プレートヒーターなどで保温することになります。
昆虫を主とした雑食、フトアゴヒゲトカゲのエサ
最後に、フトアゴヒゲトカゲの餌について簡単にふれておきます。
飼育書には、エサについて
- 昆虫(コオロギ、バッタ、ハチミツガの幼虫、ミールワーム)、野菜に果物(刻んだリンゴ、オレンジ、コショウ、ブロッコリ、アンディーブ、つぶしたカボチャ、ニンジン、ズッキーニ、クレソン、チンゲンサイ、タンポポ、キンレンカの葉と花)。小さく切って、よく混ぜ合わせ、ビタミンやカルシウムなどの栄養剤をまぶす。コウイカの甲を砕いて置いておく。昆虫だけで育てると、いずれ植物を拒否するようになり、必要な栄養分を摂取できなくなる。(「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」P53より)
- 本種のイメージは昆虫食であるが、実際は葉野菜や果物、人工飼料なども食べる雑食で、これは成長とともに好みが変わったりもする。特に幼体のうちは常識の範囲内で、他の爬虫類も食べるようなものはなんでも与えてみると良い。また、多くのトカゲがカルシウム不足になりやすいので、餌には必ず市販のカルシウム剤を塗してから与えるようにする。(「爬虫両生類の上手な飼い方」P63より。このほか、主な餌として、コオロギ、ジャイアントミールワーム、ピンクマウス、葉野菜、スライスしたカボチャやニンジン、食用菊、果物、人工飼料を挙げていた)
のように記載され、昆虫を主とした雑食という点は、どの書籍でも共通しています。
飼育施設では、刻んだ野菜・果物類に加えて、活餌以外の動物質を与える工夫が見られました。
東山動物園では、
- 植物質・・・白菜など葉物、バナナ、オレンジのような柑橘、果物の果肉(パパイヤかマンゴーかメロンか)
- 動物質・・・冷凍コオロギ
- カルシウム剤
を与えていました。コオロギは生餌だとケージの中で散らばってしまったり、ストックが大変だったりしますが、冷凍であれば管理が楽です。動き回らないだけに、野菜と混ぜたり、カルシウムをかけたりといった形で偏食しにくいエサの与え方もできます。
iZooでは、野菜類と人工飼料に、パウダーの栄養剤を添加していました。
人工飼料は主として動物質をカバーするものが多く、野菜類との併用を薦める製品もあります。iZooでも、濃い緑色の葉物などとあわせて使われていました。
フトアゴヒゲトカゲは、適度な大きさ、人馴れする、繁殖が容易で入手しやすいなど、飼育対象としての適性を備えた爬虫類。紫外線・温度管理やエサについても、多くの知見が蓄積されています。ほったらかしでは飼えませんが、基本を踏まえてしっかり世話をすれば、よい飼育対象として長く付き合えるのではないでしょうか。