フィールドワークをもとにヒキガエルの生態を語る「金沢城のヒキガエル」

「金沢城のヒキガエル」は、数年間に及ぶ膨大な個体識別のフィールドワーク結果に基づき、ヒキガエルの生態を語った本。

著者の奥野良之助さんは、京都大学で魚の研究をした後、神戸市立須磨水族館に勤務。金沢大学の生物学科の先生に転じられた方です。大学時代の魚の研究では海への潜水を数多くこなし、水族館の飼育係となってからも、水族館で飼育している魚を観察し論文を書かれていたそうです。

当時金沢城跡内にあった金沢大学に転じてからは、金沢城跡内(兼六園の隣で、緑が残っていて結構広い)に生息するヒキガエルの集団を研究対象とすることに。その研究とは、ヒキガエルが活動する夜に金沢城址内を歩き、出会ったカエルに個体識別の印(標識)をつけて記録をとるというフィールドワークに基づくものでした。標識を付けた個体数は、9年間で1526匹、金沢城本丸以外も含めると2000匹を超えるそうです。

これだけの数のヒキガエルを継続的に追い続けると、様々なことがわかってきます。

  • カエルの日常(一日の動き)は、どういう要素に支配されているのか。おなじルートをまわっていても、何十匹と出会う日や時間帯がある一方、ほとんど見かけない日もあります。
  • 年間では、どのような時期にどのような活動をしているのか。冬眠・春眠・夏眠や、繁殖(カエル合戦)は何をきっかけに行われるのか。
  • 生存率・寿命や繁殖への参加などカエルの生涯はどうなっているのか。複数の標識されたカエルを数年にわたって記録することで、わかってくることがあります。

この本は、こういったフィールドワークの結果に基づいてヒキガエルの生態を明らかにした第一級の研究資料です。学者の方が書かれた本らしく、関連研究に対する言及も豊富です。

ただ、文章は単なる論文とは違い、学術的な研究結果と、大学紛争や学内事情、障害のあるヒキガエルへの思いなどの様々なエピソードがうまくまじりあっていて、一般向けに読みやすい読み物となっていました。

文章のボリュームはかなり多いのですが、すらすら読めて内容もすっと頭に入ってくる、楽しい本でした。


金沢城のヒキガエル 競争なき社会に生きる (平凡社ライブラリー (564))