紀伊山地寄りの、奈良の奥山を歩いていた初夏のこと。
登山口付近は針葉樹ばかりですが、登るにつれて広葉樹が多くなっていく環境。標高1000メートルちょい、まだ針葉樹が優勢なものの下草も生えているといったエリアで遭遇した爬虫類・両生類、何だと思いますか?
ヒバカリです。
こんな場所にいるんだ、と思い、帰って図鑑を確認したところ、次のように記載されていました。
- 低地から山地の森林や草地に生息し、特に水辺や湿地に生息する。林縁部で近くに水場がある場所では人家の庭などにも出没する。~中略~ 暑い夏場は日陰で沢などのある涼しい林内でよく活動する。(大谷勉著「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」P36)
- 水辺を中心に、森林や耕作地、住宅地などにすんでいます。(ニューワイド学研の図鑑 爬虫類・両生類 P72)
ヒバカリを森林で見かけるのは、普通のことのようです。山なので、沢水が流れている場所も、なくはありません。
ただ、涸れ跡レベルのところ、わずかに滲みだしているようなところが多く、水が豊かな場所とは言いづらい気がします。
登頂した帰り道。またまた、山道を横切る生き物がいました。
黒っぽい、ヒキガエルのようです。
ただ、ヒキガエルによくある茶系の色とはいいがたい色で、かつ、横腹の帯模様が見えません。
「週刊朝日百科 動物たちの地球98 両生類・爬虫類② スズガエル・ヒキガエルほか」の分布図によると、この場所は、緑斜線のナガレヒキガエルの分布域、かつ三重・奈良の飛び地的にアズマヒキガエルの分布域となっているあたり、でも少し北へ行くと二ホンヒキガエルの分布域かな、といった場所。場所的には、どれでもおかしくはありません。
再び図鑑を参照します。
二ホンヒキガエルの特徴・生態(大谷勉著「日本の爬虫類・両生類飼育図鑑」P166)
- 背面の体色は濃褐色だが、地方により多少の変異がある。繁殖期のオスは背面が褐色となる。目の上から耳腺(鼓膜の背側にある細長い隆起)を通り、後肢の付け根まで幅が不揃いな白色または淡褐色の帯模様が入る。この帯模様は個体によりさまざまに断裂する。頭部は長さより幅が広く、四肢は太く短い。体全体に大小のイボ状突起があり、強く押すと毒液が出る。耳腺は特に大きい。
- 海岸から標高2000m近くまでのさまざまな環境に生息。繁殖期以外の多くは森林内やその周辺の比較的下草などの多い環境に散らばっており、姿を見ることは少ない。
アズマヒキガエルの特徴・生態(同P168)
- 二ホンヒキガエルに似るが、やや小型で鼓膜が大きい、背面は灰褐色で模様はくすむなどで区別できる。繁殖期にはオスの背面全体が黄褐色に、メスは明褐色に変化し、雌雄共、体側の白色帯で囲われた黒色模様も鮮明になる。
ナガレヒキガエルの特徴・生態(同P169)
- 日本産のヒキガエルの中では四肢が長い。体背面は大小のイボ状突起が多いが、頭部ではあまり目立たない。繁殖期にはオスのみ、体背面のイボ状突起が目立たなくなる。鼓膜は斜めの楕円形で小さく不明瞭。腹面はやや荒く不定形な黒斑が点在する。非繁殖期の色彩は二ホンヒキガエルに似るが、繁殖期の雌雄の体色は変異に富み、暗緑色、オレンジ色、赤色を含む豊かな体色に変わる。
- 標高1700m前後までの山地に生息。非繁殖期に同所的に生息するアズマヒキガエルとは、本種は渓流の周囲や林床、樹上で活動し、アズマヒキガエルは河原や林縁部で活動するといった棲み分けが見られる。
第一級の図鑑の記載をみても、なかなかすぐに判断できません。地域的にはどの種でもおかしくなく、見かけた地点の標高はおそらく1000m+αの高さ。山地であることからナガレヒキガエルかなと思えますが、二ホンヒキガエルもこれくらいの標高・環境は十分生息圏内でしょうから、決め手にはなりません。
体色でいうと、見かけたタイミングは非繁殖期で、文章だけでみれば「灰褐色」のアズマヒキガエルかなと思えますが、二ホンヒキガエルの体色は地方により多少の変異があり、他2種は二ホンヒキガエルに似るとありますので、これも決め手にはなりません。
飼育施設のカエルたちから判断
このように、品種の同定は素人には難しいものがあります。このカエルも何ガエルかはわかりませんが、目撃者としてはナガレヒキガエルかなと思っています。各所の飼育施設でそれぞれのカエルたちを見てきて、ナガレヒキガエルと雰囲気が似ていると感じたからです。
せっかくですので、各飼育施設での写真をいくつか示します。写真には種名をいれませんので、後でスクロールして答えをみてください。ただし、ここでの「答え」は、あくまでその施設における展示名を私が控えたものを指します。特に、控えのミスは十分ありえますので、疑ってご覧ください。
- Kawazooのナガレヒキガエル
- アクアトト・ぎふのアズマヒキガエル※
- 東山動物園のアズマヒキガエル
- アクアトト・ぎふのナガレヒキガエル※
- アクアトト・ぎふのナガレヒキガエル※
- アクアトト・ぎふのアズマヒキガエル※
- 手前2匹がアズマヒキガエル、奥1匹がナガレヒキガエル(アクアトト・ぎふ)※
- 東山動物園のナガレヒキガエル
- 東山動物園のアズマヒキガエル
- 旭山動物園のアズマヒキガエル
- 天王寺動物園のナガレヒキガエル
- とべ動物園の二ホンヒキガエル
- 東山動物園のナガレヒキガエル
- 天王寺動物園の二ホンヒキガエル
- アクアトト・ぎふのアズマヒキガエル※
- アクアトト・ぎふのナガレヒキガエル※
- アクアトト・ぎふのナガレヒキガエル※
※アクアトト・ぎふは、複数のナガレヒキガエルとアズマヒキガエルを同じスペースで飼育しています。ここでの記載は管理人の勘で、2種が同じスペースにいるからこそなんとなくわかる質感の違い、居場所の違い(ナガレヒキガエルの方が平場でなく岩組みにいる傾向がある)をもとに判断しています。つまり、正確なものではありません。
さて、問題のヒキガエルの写真をもう一度確認してみます。腕は、確かにスラっとした細腕をしているものの、長いとは言い切れないような微妙な長さ。白い帯は目立たず、写真が不鮮明ですが鼓膜が目立つ感じもありません。
雰囲気的には、⑧、⑪の左側、⑰に似ている気がします。なかなか見られるカエルでもありませんので、ナガレヒキガエルを見かけた、ということにしておきたいと思います。