プロがつくるボールパイソンの飼育ケージレイアウト4選

ボールパイソンは、いわゆる「外国産の大蛇」の見た目をもつヘビ。ニシキヘビ科に属し、ボールニシキヘビとも呼ばれています。

かみね動物園のボールニシキヘビ

ニシキヘビ科のヘビは巨大な種が多く、世界最大とされるアミメニシキヘビは10メートル近くにもなり、シカやヒョウを飲み込むこともあります。一方、ボールパイソンは150センチとアオダイショウと同じサイズ。

ただ、同じ1~2メートル位のヘビとは比べものにならないほど胴が太く、がっしりした体格をしているため、大蛇のような風格があります。

今回は、そんなボールニシキヘビを、他の大型ニシキヘビ含め種々のヘビを飼育する専門施設がどのように飼育しているのか、ご紹介します。

文献にみるボールパイソンの飼育ケージレイアウト

専門施設での飼育環境を見る前に、名高い飼育書でボールパイソンについての記載を確認します。

鳥羽水族館のボールニシキヘビ

「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」には、ボールニシキヘビの飼育について次のように記載されています。

ビバリウムのサイズ、居住環境

90×38×45cm。木登りと日光浴用に、水平および傾斜のある枝類。プラスチック製の植物。隠れ家は地上にひとつ、樹上にひとつ。水を入れたボウル。繁殖期には軽く水を吹きかける。

気温、湿度

低温部で29.5度、ホットスポットで35度、夜間は24~26.5度。光周期:14時間。60%。

床材

交換や掃除が簡単な新聞紙、カーペットタイプの素材。

千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」には、

西アフリカ・中央アフリカに分布。全長1~1.8メートル。ニシキヘビとしては小形で温和で扱い易いが、あまりさわられると食欲を落とす。シェルターと木登り用の枝を設けたテラリウムがよい。気温は日中24~30度、夜間はそれより2~5度以内で下げる。餌は小さな齧歯類がよく、ジャービル、マウス、ハムスター等。給餌直前に殺した温かいネズミが食いもよく、またヘビをおびやかさないですむ。9月頃から翌春まで食欲の落ちる傾向がある。

とあります。

沖縄こどもの国のボールパイソン

冨水明、海老沼剛著「爬虫両生類の上手な飼い方」には、

ケージ

一般的に地表での活動しかしないと思われがちなボールも、木を入れてやると意外によく登る。これは便秘解消にもつながるので、できればレイアウトくらいはしてやった方が良い。

気温

ケージ内には必ず35度程度の場所を設け、給餌後にゆっくりと体を暖められるようにする。ボアやパイソンの場合、空気を暖めることが重要である。そこで、上写真のケージの蓋につけるタイプのヒーター(サイト注:暖突)は重宝する。さらに腹筋を冷やさないために床面から遠赤外線ヒーターを用いるのが良い。

床材

ウッドシェイブやウッドチップを使うが、キッチンペーパーなどでも問題ない。

水容器

通常は全身が入れるものを用いるが、実際は健康な個体で湿度維持がちゃんとなされていれば、脱皮前に水に入らなくともきれいに脱皮する。個体が大きくなったら、水容器は小さめのものにしてかまわない。

京都市動物園のボールパイソンは、水が満たされたウォーターシェルターの中に浸かっていた

とありました。

なお、この「爬虫両生類の上手な飼い方」では、ボールパイソンの飼育下での繁殖の流れについてかなり詳しく写真付きで解説しています。繁殖を狙う場合必読です。

餌については、いずれの文献もマウスを挙げ、季節拒食についての記載がありました。

広々としたスペースに枝を張り巡らせる東山動物園のボールパイソン飼育ケージレイアウト

飼育参考書の知識を踏まえたうえで、プロによる実際の飼育例を見てみます。

最初にご紹介するのは、ボア・ニシキヘビといった無毒のヘビを多数飼育する東山動物園自然動物館での飼育環境。まず見ていただきたいのは、ここのボールパイソンの大きさ。

東山動物園のボールパイソン

個体によっては、または飼育環境によってはここまで大きくなるんですね。臆病な性質で、かつ人間に危害を与えるレベルの大きさではありませんが、こんなヘビが万が一逃げ出したら大変なことになります。ボールパイソン飼育者がケージを用意する上でまず考えるべきは、逃げられないしっかりしたケージで飼うということ。見た目の体格通り、力のあるヘビだということも考えた上で設備を整えるべきです。

ボア・パイソン類でかつてペットとして流通していたボアコンストリクターや、同じニシキヘビ科のインドニシキヘビは、法律で「特定動物」に指定されています。特定動物に指定されたものは、一定のレベルの飼育設備を整えた上で許可を得ないと飼育できません。東山動物園のボールニシキヘビのすくそばのスペースには、特定動物のヘビが何種類も飼育されていましたが、ボールパイソンはこれらのヘビの小型版。ケージの質や管理には万全を期したいものです。

さて、ケージがしっかりした造りであることを前提に、ケージ中のレイアウトを見てみます。

枝の上で丸くなるボールパイソン

東山動物園のケージはかなり広く、手前側に乾いた砂の部分が、奥側に造りつけの床の部分があります。手前側には登れるように木の枝が配され、奥側には体が入る大きさの水場が用意されています。

木の枝は、他の種類のヘビのケージと比べて、大規模かつ複雑な形のものが設置されていました。何本もの枝を用意し、互いに絡みあう部分・水平な部分を設けています。枝組みはボールパイソンが居場所とすることを前提に、来園者から見やすいケージ前方のガラス面前に配されていました。

ボールパイソンを広いスペースで飼うメリットは?

さて、ここまでの写真をみると、東山動物園はボールパイソンをかなり広いケージで飼育していることがわかります。一般的にヘビは飼育に広い場所を必要としないとよくいわれますが、広いスペースで飼うことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

ひとつ挙げられるのは、ケージ内に温度勾配をつくれるという点です。パイソン類は、餌としてマウスなどの哺乳類を丸呑みします。その消化を助けるため、ケージ内には高温の場所が必要です。ただ、ケージ内全体が高温になってしまうと、生体の逃げ場がありません。爬虫類両生類にとって、低温はある程度の時間耐えられるものですが、高温は一発で致命傷になります。

広いケージだと、ケージ内に高温部と低温部を設けることができますし、ボールパイソンの居場所によって適温がわかるようになります。温度勾配は、高さがあるケージで上下の動きが可能な場合、高低でつけることも出来ます。

東山動物園のケージは、広い上に、木の枝を張り巡らせることにより上下にも動ける環境となっています。個人がこれだけの環境を用意するのは難しいかもしれませんが、理想形として記憶にとどめたいレイアウトだと思いました。

水も浸かれば、シェルターにも入る。長生きな生体の折り紙付き、八木山動物公園のボールニシキヘビ飼育環境

続いてご紹介するのは、仙台市にある八木山動物公園。ここでは、3匹のボールニシキヘビが飼育されています。訪問日時点で来園してから16年がたつとのことで、飼育環境の良さは生体の折り紙付きです。

八木山動物公園のボールニシキヘビ

ケージの手前側には細長い形の水場があって、3匹とも意外なほどよく浸かりに来る様子。

ボア類は力が強いため、水入れは簡単にひっくり返されないようなしっかりしたものが必要です。そして、脱皮前に水に浸かりたがるヘビには、本来、全身が入る大きさの水入れを用意できれば理想。

ボールパイソンの成体はそれなりに大きく、全身が入る大きさの水入れを用意するのは大変ですが、下のような写真をみると、用意してあげたくなりますね。

よく水に浸かる

ケージ内には、複数の岩や木の枝が配されていて、それがうまく重なり合ったり陰になったりしてシェルターをつくりだしています。

中央には空洞がある太い木の幹が置かれていすが、この太い幹の下にはちょうどよい隙間があるらしく、体を突っ込んで隠れている個体がいました。

シェルター(木の幹の下)に首を突っ込む

木の陰には水苔を敷き詰めた一画も。ここもいい感じのシェルターとなっていて、中に入る個体の姿がみられました。なお、餌は週一回マウスなどを与えているそうです。

木の陰にある水苔を敷き詰めたシェルター

立体的なレイアウトが参考になる沖縄こどもの国/広島市安佐動物公園のボールパイソン飼育ケージ

名前から受ける印象と違ってなかなか本格的な展示内容の、沖縄こどもの国の爬虫類館。ここの飼育ケージは全般的に木の枝組みがとても上手いのですが、ボールパイソンのケージも下のような立体的な造りでした。

沖縄こどもの国のボールパイソン飼育ケージ(枝組み)
ケージ底面は、乾いた土やヤシガラなどが混ざった床材が敷かれ、乾燥した状態。右下には体が浸かる大きさの深い造りつけの水入れが見える。

ボールパイソンは、枝組みの上部の方で丸くなっています。「ニューワイド学研の図鑑 爬虫類・両生類」のボールパイソンの項には、「樹上でも地表でも活動し」とあるので、木登りは得意なはず。

爬虫両生類の上手な飼い方」は、ボールパイソンのレイアウトに木の枝を入れた方が良い理由について、便秘を防ぐ効果を挙げています。ボールパイソンを狭いケージで飼って運動不足のままにしておくと、腹筋が弱まり便秘になりやすくなります。便秘は、食欲減退のもと。木の枝をいれて立体活動ができるようにすれば、便秘解消に役立ちます。

木の枝を入れるもう一つのメリットは、体温調節。ケージに上の写真くらいの余裕があれば、ボールパイソンがケージ内を移動し、上部や底面のヒーターとの距離を変えることにより、温度調整ができます。

縦長の飼育ケージに木の枝を配したケージスタイルは、広島市の安佐動物公園でも見られました。

安佐動物公園のボールニシキヘビ

ケージには5匹のボールニシキヘビがいました。一匹は乾いた床の上にいて、一匹は水入れに体の一部を浸しています。ただ、残る3匹は枝の上。やはり、環境を用意してやれば、立体的な活動を好むようです。

個人でも用意できる現実的なサイズ:タイ赤十字協会スネーク・ファームのボールパイソン飼育ケージレイアウト

タイ赤十字協会スネークファームは、毒蛇血清の研究施設にあるヘビ飼育場。展示するヘビの種類数はかなり多く、飼育設備の質・量ともに充実しています。

ボールパイソンが飼育されていたのは、屋根付き屋外にあったこのケージ。

スネーク・ファームのボールパイソン

乾いた砂が薄く敷かれた床に、シェルターとして木の切り株(枝分かれした部分?)が入れられています。水場は造りつけのもので、体が入る広さですが深さは浅め。水道の出口と排水口が直結されていました。

タイ赤十字協会のボールパイソン

東山動物園級の飼育設備を個人で整えるのは難しそうですが、こちらのタイ赤十字協会のケージくらいだと現実的。参考にしたいレイアウト構成です。

ボールパイソンの飼育ケージレイアウトで注意すべきこと

最後に、飼育書の記載と各施設での状況を踏まえてボールパイソンの飼育で注意すべきことをまとめてみます。

・温度管理が重要。ケージ内の温度勾配を意識する

・木の枝を配し、立体的な活動ができるようにする

・逃げ出さないよう、しっかりした設備で飼育する

ボールパイソンは、当サイトで飼育方法を紹介する爬虫類の中では比較的飼いにくい種類。前述の飼育書でも、人気はあるものの初心者向けではないというニュアンスでした。拒食の問題や、高温を維持する設備の必要性なども考慮すると、飼育には知識面・金銭面である程度のレベルが要求されます。単なるキープではなく、本来の生き生きとした姿を存分に引き出せるよう、万全の設備のもとで飼育したいものです。

プロがつくるボールパイソンの飼育ケージレイアウト4選」への1件のフィードバック

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