ツノガエルは、初心者にも飼いやすいペットフロッグ。小さなプラスチックケースに入った五百円玉サイズの幼体が並べられている姿を、よくみかけます。
ベルツノガエルやクランウェルツノガエルは、飼育・繁殖技術が確立されていて、売られている個体はほぼCB(養殖個体)。飼育にあたって大きなケージはいらず、紫外線照射も不要。比較的簡単な設備で飼うことが可能とあって、都市生活者にも人気があります。
そんなツノガエルですが、普通の日本人が野生での姿を見る機会は、ほとんどありません。ところが、先日たまたま見ていたテレビで、野生のツノガエルの様子が放映されていました。
映っていたのは、【NHKスペシャル「太古の命守る奇跡の森~ブラジル マタアトランティカ~】という番組。ツノガエルは、熱帯雨林の腐植質の地面のなかに、体を埋めて身を隠していました。
彼らは、待ち伏せ型の採食行動をとります。地中に身を潜め、目を地面に出し、昆虫や小動物が通りかかるのを何日も待ちます。そして、ついに通りかかったのが、小さなヘビ。一気に食らいつき、何時間もかかって腹の中におさめます。
映像は、プラスチックケースのスポンジの上にいる姿からは想像できない、生き生きとした、躍動感あふれるツノガエルの姿をとらえていました。
現実のツノガエル飼育で、熱帯雨林の林床を再現するのはなかなか困難です。ただ、ひと手間かけて、本来の野生の姿を引き出してみようとするのも飼育の楽しみ。そこで、地面で暮らす彼らにとって生活の場そのものである床材に焦点を当てて、飼育下での環境づくりを検討していきたいと思います。
目次
飼育参考書にみるツノガエルの床材
まずは、信頼できる飼育書から、ツノガエルの床材に関する記述を引用します。
- 体を潜らせ、湿度を保てるように床にミズゴケ等を敷くとよいが、餌と共に呑んでしまうことがあるので、中途なサイズの小砂利等は望ましくない。食べても化学的に安全で、排泄できる材質がよい。(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P20ベルツノガエルの項より)
- 衛生面を優先した場合は、濡らしたペーパータオルを重ねたものやフォームラバー。大型ビバリウムには、落ち葉や苔を深さ8cmに重ねた保湿性の高い床材を使い、頻繁に交換する。水深1cmの水槽で飼育する人もいる。
- 床材が土であれば、1日のほとんどを半ば土に埋もれた状態で過ごす。しかし、食欲が旺盛な分だけ排泄物の量も多く、できれば衛生面を優先させて、土以外の床材を使ったほうが良い。掘れない床材でも適応するので心配ない。(「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」)P178ツノガエルの項より)
- 飼育などはベルツノガエルに準ずるが、特に野生個体では薄く水を張ったケージよりも土に潜らせて飼った方が落ち着く。(冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」P151クランウェルツノガエルの項より)
なお、冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」には、カエル全体の床材について、かなりの紙幅を割いて総論的な解説がなされています。ミズゴケ・腐葉土・ヤシガラの混合物をそれぞれの種類に適した割合で配合する方法などが紹介されており、必読です。
一流飼育施設における床材使用状況
続いて、国内一流の両生類飼育施設で使われていた、床材の種類をご紹介します。ツノガエルは地表性だけに、床材選択はレイアウトのキモ。各施設とも、工夫を凝らしてさまざまな飼育環境を用意していました。
洗って繰り返し使える大磯砂
トップバッターは、両生類飼育の名門・東山動物園の飼育レイアウト。ケージ内には、水場と陸場の両方が設けられていました。
水場は深いところで水深3センチ強程度で、底砂は大磯砂。岩と流木で水場と区切られた陸地部分も、大磯砂でつくられています。東山動物園は大磯砂を使ったレイアウトが多く、お家芸といったところ。
陸場には葉の広い観葉植物が植えこまれていて、影になる場所を作っています。ベルツノガエルがいたのは、葉っぱの陰の大磯砂の中。半分だけ体を埋めていました。
大磯砂は、洗って繰り返し使える床材です。米を研ぐ要領で洗うことによって清潔さを保てますし、使っていて劣化するということはありません。この、使用により劣化せず、繰り返し使えるという点は、使い捨てや有機質の床材との大きな違い。目が細かいので、穴を掘って体を埋めるのにも影響はなさそうです。
大磯砂使用時に気を付けたいのが、エサ摂取時の誤飲。これには、ピンセットでエサをやるという回避方法があるようです。
湿度と清潔さが保てるミズゴケ
地表性ガエル含む両生類飼育の床材として、必ず名前が挙がる水苔。天然の有機質でありながら、
- 園芸資材であり、安価で大量に入手しやすい
- 保水性があり、濡らしたり絞ったりして適度な湿度が保てる
- 限度はあるが、数回は洗って再利用でき、清潔に保ちやすい
といったメリットを持ちます。その水苔を床材として使用していたのが、登別マリンパークニクス陸族館の飼育ケージ。
床一面に、ミズゴケを敷きつめています。水苔は、他の床材と混ぜて使われることもよくありますが、ここは純度100%。他と混ぜてしまうと洗うことは難しくなりますが、ミズゴケ単体だと数回くらいは繰り返し使えます。
ベルツノガエルは、植物の下の流木の陰にいました。飼い込まれた感じの、大型の個体でした。
小石、焼赤玉土、ハイドロボールなどの床材
続いては、カエル専門の飼育施設、あわしまマリンパークカエル館から。チャコガエル、クランウェルツノガエル、ベルツノガエル、ブラジルツノガエルが並べて展示されています。
このうち、クランウェルツノガエル、ベルツノガエル、ブラジルツノガエルのケージには、直径1センチ弱の小石状の床材が使われていました。
水槽には1、2cmほどの水が張られていて、床材の下部は水に浸っています。ただ、床材の厚みは5cm以上あり、水分を確保しつつも水はけは良い状態です。
この床材、質感からすると、無機質な素材のようです。園芸用の鉢底石や観賞魚用の濾材として使えそうな軽そうな質感で、焼き物かもしれません。表面は多孔質とまではいきませんが、ツルツルでなくザラザラ。多少の水分保持能力はありそうです。
このような素材には、
- 無機質素材なので、洗って再利用できる
- 表面のザラザラにバクテリアがつくため、ある程度のアンモニア分解能力が期待できる
- 素材に水分保持能力があるうえ、粒と粒の間に空間が確保されるため、下に水を張れば水はけと湿度確保が両立できる
といったメリットがあります。
同じ特徴をもつ素材には、園芸のハイドロカルチャーに使われる、レカトンやセラミスといったものがあります。
もうひとつのカエル専門施設、Kawazooでも、おなじくらいの粒の大きさの床材をつかっていました。
Kawazooで飼育されていたツノガエルは、クランウェルツノガエル、アマゾンツノガエル、ベルツノガエル、ファンタジーツノガエル。すべて同じ床材で、焼赤玉土を使用しているようです。
焼き赤玉土は、赤玉土を焼いて崩れにくくしたもの。有機物である土は、高温で焼くと陶器になります。焼き赤玉土は、この性質を利用して作った、土と焼き物の中間的存在。これも、前述の
- 表面のザラザラにバクテリアがつくため、ある程度のアンモニア分解能力が期待できる
- 素材に水分保持能力があるうえ、粒と粒の間に空間が確保されるため、下に水を張れば水はけと湿度確保が両立できる
- 焼成の度合いによるが、洗って再利用可能
といったメリットをもつ素材となります。
焼赤玉土は、園芸用品として使われることが多く、比較的安価に入手可能です。Kawazooで使われていたような比較的粒度の大きい(3~6mmや5~10mm)ものだと、たとえば次のような製品があります。
観賞魚用として売られているなかには、比較的粒度の小さい製品(1~3mm)も。
同じく観賞魚用で、焼成度合いが高く事実上のセラミックソイル・セラミックサンドとも言えそうなのが下の製品。洗っても粒がつぶれにくいタイプです。
地表性ガエルであるツノガエル類にとって、お腹が常に水に浸っている状態は自然とはいえません。また、お腹の皮膚が常に水に接している場合、排せつ物が水に溶け込めば、アンモニアの毒素が早く回ります。水はけは、ツノガエルの床材を考える上で重要なポイントです。
小石・ハイドロボール・焼き赤玉土などの床材は、シンプルながら、水はけ・湿度確保・メンテナンス性の3点を満たした素材。カエル専門の施設が両者ともこのような素材を使っていた事実は、興味深いです。
野生の環境に最も近い、土を床材にしたケース
最後に、野生での環境に最も近い、土を床材にして飼育していた例をご紹介します。
足立区生物園の、こちらの水槽。使われているのは、腐葉土と黒土を混ぜた感じの腐植質を含んだ土。10センチ近い厚さが敷かれていて、ツノガエルはその中に潜っています。
目線を地面に近くして横から見ると、カエルはほとんど埋まっていて見えません。
野生では、この状態で、やってくる昆虫や小動物を待ち伏せしているのでしょう。
ここで使われている床材は、腐葉土や黒土といった素材。糞に含まれるアンモニアを分解する能力は他の床材に比べて高いものの、ツノガエルの排せつ物をずっと放っておけるほどの能力は期待できません。
土は洗って再利用できる類のものではありませんから、定期的に交換が必要。
また、人によっては、上のようなレイアウトは、いつも潜っていて鑑賞に適さない、と感じるかもしれません。
ただ、土を厚く敷いた状態が、本来の野生の環境に最も近いのも事実。一つの理想形として、頭にとどめたいレイアウトと言えます。
ツノガエルの飼育における床材以外の注意点
ここまで、地表性のカエルにとって重要となる床材に焦点をあてて、ツノガエルの飼育環境をみてきました。続いて、床材以外で注意すべき点を取り上げます。
エサのあげすぎ、偏りは突然死を招く
ツノガエルの餌については、様々な飼育書を参照しても、ほぼ同じことが書かれています。
もともとは待ち伏せ型の捕食者
→本来の摂食の頻度は高くない。
→動くものなら何でも口にする。
⇒給餌の頻度をコントロールしないと、食べ過ぎ・肥満で突然死する。
⇒栄養面で偏ったものを与え続けると、健康を害する。
ツノガエルのエサの頻度、間隔
では、エサはどれくらいの頻度であげればよいのでしょうか。給餌の間隔について具体的な記載があったのは、冨水明著「爬虫両生類の上手な飼い方」と「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」。前者では、
- 鶏卵サイズまで育ったら、給餌は週に2回ほどでいい。コオロギなどの昆虫をメインに、金魚なども与える。ピンクマウスも良いのだが、それをやるなら週に一度、1~2匹に。上陸したての幼体時には消化量に合わせてバンバン餌をやろう。そうして、鶏卵サイズまで一気に育て上げる。この時期は代謝も高い。体と同サイズの金魚なども1日で消化する。
後者では、
- 成体は太りやすいので、7~14日ごとにマウス1頭くらいが適当です。変態直後の若いカエルには、2日ごとに餌を与え、成長するにつれて給餌間隔を伸ばし、大きな餌を与えるようにします。こうすると、12~18ヵ月で十分な大きさに成長します。幼体にあまり頻繁に餌を与えると、早い場合6ヵ月ぐらいで成体の大きさに達し、以後、筋肉や骨ではなく脂肪で体重が増えてしまうので注意しましょう。
と書かれていました。
なお、各飼育書で餌として挙げられていたのは、コオロギ・金魚・ドジョウ・ミミズ・マウス・大型昆虫類・1日たったヒヨコなど。ただ、海老沼剛著「かえる大百科」では、マウスは高タンパク・高脂肪なため与え過ぎに注意し常用は避けるよう記載されていました。
ツノガエルの飼育温度と保温器具
最後に、ツノガエルの飼育温度について確認します。飼育書には次のような記載が見られます。
- 温度は22~26℃がよく、夜にはやや下げる。(千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」)
- 日中は25.5~30℃、夜間は22~24℃(「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」)
消化のために腹部を暖める必要があるツノガエルにとって、保温器具の定番は遠赤外線シートヒーター。安価で入手しやすいアイテムですが、使用にはコツがいります。
- 温度調整は、ヒーターと床材表面の距離で調節する。上げたい場合は、ヒーターの上にケージ底面を直接置き、床材を薄くする。下げたい場合は、ヒーターとケージ底面の間に隙間を空け、床材を厚くする。
- 床材の性質により、温度の伝わりかたが違うので注意する。ミズゴケや大粒のハイドロボールなど、空気を含む床材を敷いた場合と、土を敷いた場合では熱のこもり方が異なる。温度計で床表面の温度を正確に把握すること。
- カエルは温度の低下には意外と強いが、過度の温度上昇にはとても弱い。適温を超えても逃げ場ができるよう、底面全面にヒーターをあてるのではなく、少なくとも1/3くらいはヒーターをあてない部分を残しておく。
といった点に注意してください。ヒーターの使用を開始するときはとくに、カエルの様子をよく観察することが重要です。
ツノガエルは、効率的な飼育・繁殖技術が確立されてきたペットフロッグ。ただ、もとを辿っていくと、南米の地中に埋もれて、餌を待ち伏せしていた野生動物です。プラスチックケースに入れられて販売される彼らですが、野生の姿をイメージしながら飼ってみると、別の魅力が感じられるのではないでしょうか。