初心者にも飼いやすい爬虫類として、根強い人気を誇るヒョウモントカゲモドキ。比較的環境にうるさくなく、簡易な設備で飼育できるため、爬虫類飼育の入門種とされています。
そんなヒョウモントカゲモドキですが、天然記念物や海外の珍種、飼育困難種を多数擁するような爬虫類展示施設でも、その姿を見ることができます。
そこで、全国から日本を代表する専門施設を5ヵ所ピックアップ。爬虫類飼育のプロが、入門種たるヒョウモントカゲモドキ(レオパ)を、
・どのようなケージ・レイアウトで飼育しているのか
・床材やシェルターは何を使っているのか
じっくり見てきた結果をご紹介します。
目次
文献からみるヒョウモントカゲモドキの飼育環境
プロの飼育環境を見る前に、詳しい文献からヒョウモントカゲモドキについての記載を抜粋します。
飼育本の世界的古典「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」での飼育方法
「Q&Aマニュアル爬虫両生類飼育入門」には、レオパは半砂漠棲でロッククライミングを好むとしたうえで、
床材:乾いた埃のたたない砂。ヒョウモントカゲモドキ(人工的なカーペットタイプの床材でも可)には厚さ5~10センチ。
ケージ(ビバリウム):最低60×38×30センチに成体のペア1組、またはトリオ(当サイト注:トリオの場合、オス1匹にメス2匹。オスは同居させると闘争する)。岩と登れる枝。隠れ家用となる岩の割れ目またはコルクバーグは、ホットスポットを避けること。多肉植物など、乾燥に強い植物ならかまわないが、湿気を出す植物は不可。鉢植えのまま入れ、岩でしっかり押さえておく。通気に気を配り、小さな水皿を置く。夜、動物が滴を舐められるように、岩に軽く水を吹きかける。
温度(気温)、ライト:低温部では25.5度、ホットスポットでは30度、夜間は21度とする。光周期:14時間。本種は地表棲、薄明薄暮性から夜行性で、フルスペクトルの蛍光灯をつける必要はないが、あれば短時間の日光浴をする。
等々の飼育条件が示されています。
砂漠のイメージに捉われすぎるな!「爬虫両生類の上手な飼い方」での飼育方法
冨水明、海老沼剛著「爬虫両生類の上手な飼い方」には、
・(床材について)成体は砂などを敷いても良いが、ベビーはキッチンペーパーなどを敷いて管理するのが良い。CB化の進んだ種ほど餌と一緒に砂を食べて詰まらせることが多い。大きい個体なら自然に排泄されるが、幼体では致命的になることが多い。
・砂漠のイメージから過度に乾燥させがちだが、これは間違い。本種は実際にはそれなりに湿度が必要なヤモリである。よってシェルターはウェットタイプ(※)にし、隠れ家は常に湿っているくらいでちょうど良い。
・アルビノ系の品種は極端に目が悪いので、水容器に気づかないことがある。霧吹きしたときに必死に水滴をなめるような場合は、ほぼ確実に水を飲めていないので、いっそ水容器は撤去し毎日の霧吹き(当サイト注:ヤモリへの霧吹きは、直接体に吹きかけないのが大原則)で水分補給させる。
・(紫外線照射について)ヒョウモンの黄色系の品種は強い光をあてているほうが、より発色する傾向がある。その一方で、アルビノ系品種には絶対にあてないように。通常の明るさですら、まぶしさで目をつぶってしまう品種なのだから。もし、どの種に照射し、どの種には照射してはいけないかがわからなかったら、最初から弱めの蛍光灯を使っておくことだ。
といった内容が書かれていました。
ここで参考にした2つの書籍は、ウインタークーリングなど繁殖のための条件や幼体に必要な飼育環境など多くの情報が記載されていて、お勧めです。ニシアフリカトカゲモドキなど近縁種についての記載もあります。
ちなみに前者の本は1998年第一刷発行で、時代からしてWC個体も多かったころの本だと思われます。後者の本は2014年の初版発行で、どちらかといえばCB個体をターゲットにした書きぶりでした。
※爬虫類飼育の定番品・素焼きのウエットシェルターのメリット
「爬虫両生類の上手な飼い方」では、ウエットタイプのシェルターとして定番の、上部に水をいれる素焼きのシェルターがとりあげられていました。私も10年以上前にヒバカリのシェルターとして買ったものを持っていますが、現在販売されているものも、姿かたちは10年以上前から変わっていません。
素焼きの素材の上部に水を入れる部分があり、入れた水を周りに滲み出させて湿度を保つ仕組み。シンプルな原理ですが使い勝手がよく、ロングセラーとなっています。
メーカー(スドー)による製品説明を見ると、上に水を入れた状態でシェルター内の湿度は90%前後にもなるとのこと。ケージ内全体を湿っぽくするより、乾いた床材に素焼きのウエットシェルターを配して、ケージ内に乾燥した場所と湿った場所をつくり、レオパに快適な居場所を選ばせる方がよいと思います。
ウエットタイプのシェルターは、手づくりすることも可能。このあとの項で、自家製のウエットシェルターもご紹介します。
植木鉢のシェルター・天王寺動物園爬虫類生態館アイファーのレオパ飼育ケージ
大阪が誇る天王寺動物園の爬虫類生態館では、ヒョウモントカゲモドキを2匹見ることができました。ケージの中には、全身が入る大きさの水入れと半分に割った素焼きの植木鉢のシェルター。餌は、コオロギが入れられていました。床材は、細かい砂利や砂が固まった感じの質感で、やや湿っている場所と乾いている場所がありました。
ヒョウモントカゲモドキはハイイエロー系の個体で、2匹ともシェルターの中にいました。
エアープランツが映える!上野動物園両生爬虫類館のレオパ飼育ケージ
上野動物園両生爬虫類館にいたのも、ハイイエロー系の個体。両生爬虫類館の温室の中のケージで飼育されていました。
ケージ内には小さな水入れと、エサのコオロギが見えます。シェルターは、流木とコルクバーグ。両方とも陰でレオパが休んでいました。中には植物として乾燥に強いエアープランツを配し、彩りのよいレイアウトになっています。少しでも緑があると、印象が全然違いますね。
コルクバーグや流木をシェルターに使うのは、なかなかいいアイデアだとおもいます。岩だと、レオパが床材を掘って岩組みが崩れた場合に下敷きになってしまうリスクがありますが、コルクバーグの軽さだとその可能性は低め。砂の上に置くだけなので、設置も簡単です。流木は熱帯魚用品として、コルクバーグはランなどを着生させる園芸資材として売られています。
ちなみに、前に挙げた文献2つの両方で、岩をレイアウトに使う場合には床材にしっかり埋めるよう注意がありました。岩が隠れ家として悪いわけではなく、ケージの底面に直接置いてしっかり砂で埋めておけば、圧死事故は防げます。
上野動物園で使われていた床材は、乾いた砂系のもの。粒は目に見える大きさで、パウダー系ではありません。おそらく、下の製品もしくは類似品を使っていると思われます。
ヒョウモントカゲモドキのレイアウトはとかく殺風景になりがちですが、上野動物園の展示は、白系の砂と言い、流木に配したエアープランツといい、とてもきれいなレイアウトでした。
柔らかな光が差し込む札幌市円山動物園は虫類両生類館のレオパ飼育ケージ
野生での生息環境を細やかに再現する札幌市円山動物園。ケージには造りつけの水場があり、床面は岩を模した造りつけの部分と、乾いた砂が敷いてある部分がありました。ケージの手前側には岩が並べてあって、シェルターのようになっています。
キャプションが詳しく飼育にも参考になる内容だったので、ご紹介します。
「中央アジアから西アジアにかけて分布しているヤモリの仲間で、乾燥した環境に生息している。全長は最大で25cmと大型で、地上で生活している。夜行性で、日中はほとんど活動しない。肉食性で主に昆虫などの節足動物を食べている。ペットとして世界中で広く養殖されており、品種改良が盛んに行われている。ここで飼育している個体も野生とは異なる体色をしており、ペット用として品種改良されたものである。」
「ペット用として品種改良されたもの」とありますが、円山動物園で飼育されていたヒョウモントカゲモドキは、今回ご紹介する5つの施設の中で唯一のアルビノ系でした。写真では光の加減がわかりにくいですが、他のトカゲやリクガメなどに比べて柔らかい明かりのケージで飼育されていました。
シェルターに工夫あり!名古屋市東山動物園のレオパ飼育ケージ
東山動物園自然動物館のレオパはハイイエロー系。バスキングライトの直下で温まっているのが一匹、ウエットシェルターのタッパーの中に一匹、写真左側シェルターの下に一匹を確認することができました。
ケージの床材は、まっすぐな丸木を横たえてエリアを2つに分け、それぞれに別々のものを使っています。全体の3分の2くらいは、乾き目の白っぽい粒の大きな砂を敷き、のこり3分の1くらいは、やや湿っぽい土の上にバークチップや岩を配していました。
水入れは小さなものがひとつ。ライトの下には、登れる大きさの岩があります。
シェルターは、左側に2,3枚の木の皮とヘゴ板で作ったものが一つ、右側奥に平たい岩をいくつか組み合わせて作ったものが一つ、右手前に手づくりのウエットシェルターが一つありました。
自作のウエットシェルターは、百円ショップなどで売っていそうな普通のタッパーの上部を四角く切り取って出入口をつくり、中にやや湿った土を敷いた造り。出入口が大きすぎると中の湿度を保ちにくく、出入口を小さくするとレオパの出入りに支障をきたすでしょうから、切り取る部分の大きさが重要です。
ウエットシェルターを自作する上で、上の写真のタッパーの大きさと、切り取られた出入口の大きさのバランスは、非常に参考になると思います。タッパーの上部を切り取るのが面倒な人は、ウォーターシェルターとして商品化されたものを購入する手もあります。
東山動物園は、タッパーのほか、バークチップやヘゴ板などの園芸資材をフル活用してケージ内の環境にバリュエーションを持たせています。一見地味に見えますが、とても工夫されたレイアウトだと感じました。
広い水場にレオパが出入りする野毛山動物園は虫類館の飼育ケージ
最後に紹介するのが、横浜市野毛山動物園のヒョウモントカゲモドキ。ハイイエロー系の個体が一匹いました。5か所のレオパの中で、一番よく動き回る個体でした。
ケージそのものは、一匹にしてはなかなか広いサイズ。サイド面が金網となっていて通気性は確保されています。基本的にガラス張りなので、レオパの姿を眺めるにはとても良いケージ。
鑑賞にあたって参考になったのは、ケージの置き位置。他の場所ではすべてレオパを見下ろすような位置にケージがありましたが(造りつけなので仕方ない)、ここでは可動式のケージを人の目線に近い高さに設置しています。大きなガラス張りのケージを使っていることもあり、横からみた姿がよく見えるのが特徴です。
横からみるヒョウモントカゲモドキも、なかなか良いもの。ちなみに、記事冒頭のレオパの写真はここの写真を使っています。
床材は、目の細かな赤系の砂を敷いていました。おそらく、下の製品もしくは類似品と思われます。白系の砂もいいですが、砂漠っぽさ・荒れ地をイメージした赤系レイアウトも、なかなか見映えがします。
水場は、体がはいる大きさのバットが置かれていました。水の深さは、レオパが入った時に顔が水に浸からないくらいの深さ。見ていたら、レオパが水入れに入っていく場面に遭遇しました。ケージが広いため、レオパが入れる大きさの水場が用意できるんですね。
プロに見るレオパ飼育レイアウトのヒントまとめ
最後に、飼育の参考書や5か所のプロの飼育環境を見て、気づいたこと、ヒントになると思ったことを挙げてみます。
・エアープランツの緑は、ワンポイントでもかなり映える
・流木やコルクバーグ、ヘゴ板など、アクア用品や園芸資材をうまく使う
・ウエットシェルターは市販の素焼きのものを使うもよし、タッパーで自作するもよし
・ケージの置き位置を目線の高さにして、横から見るのも良い
・床材は、砂を使うと白系も赤系も感じが出る。ただし幼体は飲み込みに注意
純粋に生息環境を整備するだけなら、これらのヒントは役に立たないかもしれません。ただ、せっかくペットとして飼うなら、長く眺めていられるような雰囲気のあるレイアウトで飼育したいもの。生体に配慮しつつ、見せる展示をしなければならない動物園のレイアウトには、参考になるアイデアが一杯つまっていました。