鮮やかな警戒色で、外敵に有毒性・危険性をアピールする両生類といえば、アカハライモリとヤドクガエル。
一方、目立たない姿で周りと同化し、外敵から隠れる擬態で有名なのが、ミツヅノコノハガエルやコケガエル。
一見正反対にみえる「警告色」と「擬態」ですが、これを両方取り込んでいるようにみえるカエルがいます。
その名は、チョウセンスズガエル。上から見た背中側はコケガエルのような印象ですが、腹側はアカハライモリのような赤色。体に毒を持っていて、攻撃されると体を反り返らせてお腹を見せるそうです。
このチョウセンスズガエル、ペットとして昔から飼育されている種類です。以下、飼育方法をご紹介します。
目次
飼育専門書にみるチョウセンスズガエルの飼育方法
まずは、チョウセンスズガエルの飼育について、専門書における記載をみてみます。
「Q&Aマニュアル 爬虫両生類飼育入門」では、スズガエルの項に2ページを費やし、以下のように記載しています(P172~)。
ビバリウムのサイズ・・・90×38×38cmに6~8頭。内部を高さ5cmのシリコン板で仕切り、38×38cm、深さ3cmの水場をつくる。
床材・・・陸場には粗い砂土を入れ、ミズゴケで覆う。
居住環境・・・陸場:複数のコルクバーグの隠れ家を設ける。植物はなくても良い。床材を少し湿らせるために、軽く水を吹きかける。水場:エロデア類などの水草。
気温・・・日中は18~25℃、夜間は12~15℃。光周期:光が十分に入る部屋に置く場合は、自然光にまかせる。照明に蛍光灯を使う場合は、14時間。
食餌・・・昆虫類、粉末栄養剤をまぶしたコオロギ。ときどき、ミールワームやグラスプランクトン。舌は円盤状で、口の奥に固定されているため、舌をすばやく出し入れして餌を食べることはできない。その代わりに、顎で獲物をくわえこみ、前肢で口の中に押しこむ。餌を皿に入れておくと、皿から食べるようになる。餌の昆虫が水場に入って溺れると水質が悪くなるので、皿から食べる習慣をつけると良い。
千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」P15には、チョウセンスズガエルについて、
アクアテラリウムで飼う。陸場には植物の茂みやコルクバーグでシェルターを設ける。23~25℃でよく活動するが、冬も加温の必要はなし。冬眠させるとよい。冬眠のときはそのまま5~10℃に保てばよい。むれぬ限り少なくとも春~秋は屋外でも飼える。ミミズ・昆虫・クモ等の小動物から、ピンセット等で与えれば魚肉の細片やレバー等に餌付き、貪欲に摂食する。体の近くに叩きつけるように与えると赤虫やイトミミズでも食べる。
と書かれていました。
なお、両方の書籍に、繁殖やおたまじゃくし・幼体の育て方についての記載がありました。特に「Q&Aマニュアル 爬虫両生類飼育入門」では、大きなスペースを割いてかなり詳しく解説しています。一般飼育者でも繁殖に取り組みやすい種類のようですので、ぜひご参照ください。
続いては、各専門施設でのプロの飼育環境を見ていきます。
東山動物園のチョウセンスズガエル飼育環境
まずは、カエル含む両生類の飼育では全国トップレベルの質と量を誇る、東山動物園自然動物館。チョウセンスズガエルは、明るめの砂が映えるきれいなレイアウトで飼育されていました。
ケージは手前が水場となっていて、足がつかえずに泳げる5~10センチくらいの水深。奥にいくにしたがって浅くなる砂浜のようなつくりで、陸地は岩場を含めて全体の1/4弱ほどです。
チョウセンスズガエルは人に臆せず姿を見せる
ケージ内で姿が観察できたのは、2匹。一匹は常に動いている感じで、ガラス面の付近を泳ぎ回っています。
田向健一著「ザ・カエル 世界のカエルの飼育がわかる本」のチョウセンスズガエルの項(P32)には、
- 水場を広くとったアクアテラリウムで飼育するとよく泳ぎ、慣れてくるとケージの前に人の姿を見ただけで寄って来るようになります。
とありますが、まさにそんな感じ。
ただし、真冬に来たときはそうでもなく、奥の方でじっとしていました。
チョウセンスズガエルは無加温飼育が可能
チョウセンスズガエルは、その名の通り朝鮮半島や中国北東部に分布しています。海外産カエルとしては寒さに強く、日本の気候で無加温飼育が可能と複数の専門書に記載があります(上記千石正一著「爬虫両生類飼育図鑑」、田向健一著「ザ・カエル 世界のカエルの飼育がわかる本」ほか)。
無加温飼育が可能ということは、特別な飼育設備がいらず、飼いやすいということ。これは、チョウセンスズガエルを飼う上での一つのメリットです。
Kawazooのスズガエル飼育環境
続いては、カエル専門の飼育施設・Kawazooでの飼育環境。
レイアウトの構成は、半水棲の小型ガエル向けのもの。水場は、泳いでも足がつかないくらいの深さで、水深10センチほど。陸場は、複数の流木と岩を組み合わせた立体的なつくりで、水場と同じくらいかそれ以上のスペースを占めています。
岩や流木が組み合わさった部分の隙間は、シェルター的な役割をはたしていて、窪みや物陰にスズカエルが陣取っています。流木の先端にはコオロギの姿が確認でき、エサとしてコオロギが与えられていることがわかります。
Kawazooでは、チョウセンスズガエルのほかにもキバラスズガエル・ヨーロッパスズガエルを飼育していましたが、飼育設備の構成はチョウセンスズガエルとほぼ同じでした。
富田京一著「ザ・爬虫類&両生類」のチョウセンスズガエルの項(P76)には、ヨーロッパ産のキバラスズガエルやヨーロッパスズガエルもほぼ同様に飼うことができる旨の記載があります。飼育される方は、このページの内容も参考になさってください。
茶臼山高原カエル館のチョウセンスズガエル飼育環境
最後にご紹介するのが、茶臼山高原カエル館のチョウセンスズガエル飼育環境。この茶臼山高原カエル館、10年・20年選手の長寿ガエルがいるスゴイ飼育施設なのですが、展示されていたチョウセンスズガエルも、1993年生まれの30歳クラスの個体。
チョウセンスズガエルは、もともと
- 寿命は長く、飼育下で18年以上生きた記録があります。(田向健一著「ザ・カエル 世界のカエルの飼育がわかる本」P32)
- 寿命はいたって長く、筆者の研究施設の飼育個体では18年を経ても繁殖している。(「週刊朝日百科 動物たちの地球98 両生類・爬虫類② スズガエル・ヒキガエルほか」P5-39)
と長生きの種類ですが、それでも継続して個体を維持してきた飼育環境は参考になります。
以下、茶臼山高原カエル館の飼育環境の特徴を箇条書きにすると、
- 茶臼山高原という地の利があり、冷涼で適湿な天然の気候
- ケージは、観賞魚用水槽に空気穴を開けたアクリル板をかぶせている
- 床材は、淡水魚飼育用の砂利を薄く敷いた上に、ミズゴケを敷いている
- 餌は、ミルワーム。園芸用の鉢受けのようなエサ皿に入れられている
- 水場は、ガラスの灰皿(平鉢)を利用。なかに石がはいっていて、出やすい
といった点が挙げられます。
ところで、この茶臼山高原カエル館のチョウセンスズガエル、腹部の色が赤でなく黄色となっています。
海老沼剛著「かえる大百科」のスズガエルの項(P15)をみると、
- 背面が緑と黒の斑の個体が多いが灰褐色のものもいる。生息地によってある程度体色にまとまりがあるようだ。腹部は鮮やかな朱色と黒のまだら模様で、非常によく目立つ。飼育下では模様が黄色くなることもあるが、甲殻類を餌に与えると赤に戻るという。
とあります。
「週刊朝日百科 動物たちの地球98 両生類・爬虫類② スズガエル・ヒキガエルほか」P5-39にも、同様の解説がありました。
- 腹部の赤色はカロチノイドで、飼育個体ではしばしば黄色になるが、ヨコエビなどの甲殻類を餌に与えれば赤くなる。
スズガエルは、「野生で捕獲したものは、養殖個体に比べて一段と色鮮やか」「養殖した個体の腹部の色合いは、野生のものと比べて薄い」(Q&Aマニュアル 爬虫両生類飼育入門)そうですが、飼育下で色が変わってきたら、エサを工夫してみるものよいかもしれません。
チョウセンスズガエルは、
- 大きさが手頃
- 飼育下での繁殖が容易
- 臆病でなく、鑑賞向き
- エサの要求水準が高くない
- 無加温飼育が可能で、飼育設備の要求水準が高くない
- 長生き
などの特徴をもち、飼いやすく初心者向けの両生類と言えます。近年見かける機会が減りましたが、飼育のチャンスがあればおすすめしたいカエルです。